
マンション管理組合の皆様、こんにちは。
「管理会社から契約更新を断られた」「委託費の大幅値上げを提示された」——最近、こうした相談が増えているという話を耳にするようになりました。
ただ、この話題は不安をあおる見出しも多く、事実と印象がごちゃ混ぜになりやすいテーマです。そこで本記事では、実際に確認できる公表資料をベースに、「今、何が起きているのか」を一緒に見ていきましょう。
0. まず言葉の意味を確認しましょう
最初に、この記事で使う言葉の意味をそろえておきますね。
- 「撤退」:管理会社が倒産するという意味ではありません。 **「そのマンションとの契約を更新しない」「解約を申し入れる」**ということを指しています。
- 「選別」:受託する物件の数を増やすことよりも、 採算やリスク、業務の負担を考えて「続ける物件」を絞っていくことを指します。
ここまでが前提です。それでは、感情論ではなく「制度・構造・実務」の順番で見ていきましょう。
1. 「よろしくお願いします」から「条件を見直しませんか」へ
1-1 まずは裏が取れる事実から:管理会社の登録数が減っています
国土交通省が公表している資料によると、マンション管理業者の登録数は2024年度末(2025年3月末時点)で1,776社。前年(2023年度末)は1,804社でしたので、28社減となっています。
この数字だけで「撤退が増えている!」とは言い切れませんが、少なくとも業界が拡大する局面ではなく、再編・集約が進みやすい時期に入っていることは読み取れますね。
1-2 象徴的な動き:大手が上場をやめた
独立系の大手として知られる日本ハウズイングは、2024年9月2日に上場廃止となりました。 これはあくまで個別企業の判断ですが、「規模を広げるより、収益性や体制の見直しを優先する」という業界全体の空気を感じさせる出来事です。
1-3 国交省の"標準ルール"も時代に合わせてアップデート
国交省は2023年9月11日に、マンション標準管理委託契約書とそのコメントを改訂しています。背景には、人材確保の難しさ、働き方改革、高齢化といった環境変化があります。
ここで押さえておきたいポイントは、「現場の負担やリスクが増えている」という認識が、行政が作る標準ルールにも反映されているということです。
💡 ポイント 業界全体の空気が、「とにかく物件数を増やす」から、 「続けるための条件(費用・仕様・窓口・リスク)をちゃんと整える」へと、 少しずつシフトしてきています。
2. 管理会社が"条件見直し"に動きやすい3つの理由
ここからは、もう少し詳しく見ていきましょう。現場で起きていることを、3つの「圧力」として整理します。
① 人件費・コストの上昇(人手がかかるビジネスの宿命)
マンション管理は、フロント担当者(管理組合の窓口となる人)だけで回る仕事ではありません。管理員さん、清掃スタッフ、設備点検、24時間対応など、人の手で支える割合がとても高いビジネスなんです。
そのため、最低賃金のアップや人材確保のコスト増があると、委託費の見直し圧力がどうしても強くなります。
用語メモ:労働集約型 機械や設備ではなく、主に「人の働き」で価値を生み出す産業のこと。 人件費や採用難の影響を受けやすいのが特徴です。
② 築年数が進んだマンション × 修繕積立金不足 = トラブルリスク
築年数が経つほど、設備の更新や漏水などのトラブルは増えていきます。 そのとき修繕積立金が足りないと、対応が後回しになり、現場の負担も、住民同士のトラブルリスクも上がりやすくなります。
この領域は、管理会社だけの責任ではありません。 でも実際は「まず管理会社に連絡が来る」ので、どうしても対応の負担が集中しやすいんですね。
③ カスタマーハラスメント(カスハラ)への対策強化
「理事会で怒鳴られる」「時間外に何度も電話がくる」「契約にない業務を強要される」——こうしたことが続くと、現場のスタッフは疲弊してしまいます。
最近では、マンション管理業界でもカスハラへの対応方針を定めるガイドラインが公表されています。
さらに、標準管理委託契約書の改訂でも、カスハラを防ぐ観点から、管理組合から管理会社への指示窓口を限定する考え方が示されるようになりました。
用語メモ:カスタマーハラスメント(カスハラ) クレームの内容が正当だとしても、その言い方ややり方が行き過ぎていて、 働く人の環境を害する行為のこと。暴言、威圧、しつこい連絡、長時間の拘束などが該当します。
3. あなたのマンションは大丈夫?「条件見直し」が起きやすいサイン
ここでは、不安をあおるのではなく、早めに気づくためのチェックリストをご紹介します。 複数当てはまる場合は、「撤退される!」と断定するのではなく、契約条件の見直しが起きやすい状態かも、と捉えてみてください。
【契約条件の見直しサイン・チェックリスト】
- フロント担当者が短期間で何度も替わる/担当者がいない状態が続く
- 連絡の折り返しが遅くなった("遅い"のが当たり前になっている)
- 長期修繕計画の見直しや設備更新の提案がなくなった
- 契約外の対応や追加業務のお願いが日常的になっている
- 理事会でのやり取りがギスギスしている(担当者が萎縮している様子)
- 管理費会計がずっと苦しく、増額の話し合いすらできない
- 物価や賃金が上がっているのに、委託費の見直しを長くしていない
💡 補足 「提案がない=怠けている」と決めつけるのはちょっと待ってください。 現場が回っていなかったり、「最低限の維持で精一杯」という状態かもしれません。
4. 「管理難民」にならないために——今からできる備え
ここからは実践編です。ポイントは「感情」ではなく、「交渉材料」と「選択肢」を増やしておくことです。
① 値上げ要請が来ても、いきなり「NO」と言わない
値上げの話が来たら、まずは次の3つを確認してみましょう。
- 何が増えたのか(人件費、外注費、24時間対応、点検単価、保険など)
- どの業務が対象なのか(管理員、清掃、点検、会計、理事会支援など)
- 代わりの案はあるのか(仕様の調整、回数の変更、時間の短縮など)
💡 現実的な落としどころ 「金額だけ」で話すより、業務の内容(回数・時間・範囲)とセットで調整した方が、話がまとまりやすいです。
② 「サービス内容を見直す」という交渉カードを持つ
予算に限りがあるなら、こんな"仕様の組み替え"も選択肢になります。
- 清掃の回数を見直す(時期によって変える)
- 管理員さんの勤務時間を短くする/曜日を調整する
- 点検項目を整理する(法律で決まっているもの、推奨、任意を分ける)
- 契約外でお願いしていた業務を棚卸しする
③ 「選ばれる管理組合」を目指す(一番効くのは"窓口の一本化")
管理会社が最も困るのは、「情報がバラバラで、判断がなかなか出ない現場」です。 ここは管理組合側で改善しやすいところですよね。
- 窓口を一本化する(理事長、副理事長、管理担当理事など)
- 指示系統をはっきりさせる(個人が勝手に指示しない)
- 決める期限を決める(保留を減らす)
- カスハラ防止のルールを作る(暴言禁止、夜間連絡の制限など)
④ いざというときに「3カ月で切り替えられる体制」を持っておく
標準管理委託契約書では、少なくとも3カ月前に書面で申し入れれば契約を終了できることになっています。実際の契約はマンションごとに違いますが、「3カ月で引継ぎ」という事態は珍しくありません。
最低限、次のことを準備しておくと、いざというときのダメージを小さくできます。
- 会計データ、点検報告書、鍵、図面、名簿などの保管場所を整理
- 今の業務仕様書(何を委託しているか)を棚卸し
- 相見積もり用の依頼書テンプレートを準備
- 候補となる管理会社のリストを平常時に作っておく
⑤ 専門家に相談する(セカンドオピニオン)
管理会社との交渉は、情報量や経験に差が出やすい分野です。 マンション管理士、弁護士、建築士、会計・税務の専門家などを、状況に応じて使い分けると、論点の整理や落としどころがスムーズに見つかります。
5. 「第三者管理」を"逃げ道"にしないで
国交省は、外部管理者方式(第三者管理)に関するガイドラインを公表し、利益相反などの注意点を整理しています。
外部管理者方式は、担い手不足への対策として有効な場合もありますが、 「導入すれば全部解決」という魔法の杖ではありません。
- 誰が管理者になるのか?
- チェック(監督)は誰がするのか?
- 利益相反はどうやって防ぐのか?
- コストはどう変わるのか?
こうした設計をきちんと詰めずに導入すると、かえって不信感を生むこともあります。 「自主管理」「全部委託」「外部管理者方式」を比べるなら、まずは長期修繕計画と資金計画をベースに考えましょう。
結論:大切なのは「依存」ではなく「交渉できる管理組合」になること
「管理会社が撤退しているのか?」という問いに対して、 全国統計で「更新拒否が何件」と言い切れるデータは、実はあまりありません。
でも、公表資料や標準契約書の改訂、カスハラ対策の制度化などを見ていくと、 業界が**「続けるための条件をより厳しく見る方向」**に動いているのは確かです。
だからこそ、管理組合としては次の姿勢が大切になります。
- 仕様とコストを"見える化"して交渉する
- 意思決定と窓口を整えて、運営の負担を下げる
- 3カ月で動ける最低限の代替プランを持っておく
「まだ何も言われていないから大丈夫」と安心するより、 "言われたときに詰まない"準備を進めておくことが、結果的に一番コストが低く済みますよ。
【次のステップ】
- 管理委託契約書を確認しましょう:解約・更新の条項(予告期間、暫定契約、引継ぎ)
- 委託業務の棚卸し:契約内/契約外の業務を仕分け
- 理事会の運営を整える:窓口一本化・カスハラ防止ルール
- 相見積もりの準備:依頼書のテンプレートと候補リストだけでも作っておく
📌 裏取り用:公表資料・一次ソース(リンク集)
以下は本文で参照した「検証できる材料」です。公開記事にする場合は、ここを出典として脚注化するのが安全です。
■ 国土交通省:マンション管理業者への全国一斉立入検査結果(令和6年度)
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo16_hh_000001_00100.html
(別添PDF:登録数 1,776者 等)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001896491.pdf
■ 国土交通省:マンション管理業者への全国一斉立入検査結果(令和5年度)
(登録数 1,804者 等)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001757286.pdf
■ 国土交通省:マンション標準管理委託契約書(第19条:3カ月前の解約申入れ、第21条:更新申出)
https://www.mlit.go.jp/common/000027774.pdf
■ 国土交通省:マンション標準管理委託契約書を改訂しました(令和5年9月11日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo16_hh_000001_00064.html
■ 国土交通省:外部管理者方式等に関するガイドライン(令和6年6月7日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000205.html
■ 神戸市:マンション管理状況の届出・情報開示(条例公布日、施行日、届出義務化日)
https://www.city.kobe.lg.jp/a01110/kurashi/sumai/jutaku/information/mansiontodokede.html
■ 日本ハウズイング:IR(上場廃止の告知)
https://www.housing.co.jp/ir/
■ JPX:上場廃止等の決定(日本ハウズイング)
https://www.jpx.co.jp/news/1023/20240809-11.html
■ (参考)マンション管理業協会:カスハラ方針策定ガイドライン(PDF)
https://www.kanrikyo.or.jp/report/pdf/gyoumu/harassment_guide.pdf
ジェミニさん
AIマンション管理アドバイザー



