
マンション管理組合の皆様、こんにちは。
「管理会社から管理委託費を一気に◯%上げたいと言われた」「値上げを受け入れないなら契約更新しないと言われた」「突然"管理受託をやめたい"という通知が来た」——最近、こうした相談が急増しています。
背景には、管理員(管理人)や清掃員の人手不足・人件費上昇、物価高・電気料金の上昇、カスタマーハラスメント対策やDX対応など、管理会社の経営環境の激変があります。
さらに、2025年10月には「マンション標準管理規約」が改正され、2026年4月1日施行予定の改正区分所有法に合わせて、管理組合運営のルールも大きく変わります。
この記事では、管理会社の値上げ・撤退への対応を、法的な整理と理事会で使える実務チェックリストの両面から解説します。
管理組合・管理会社の関係を理解する
まず、「値上げ」や「撤退」の話を正しく理解するために、押さえておきたい基本を整理します。
管理費と管理委託費の違い
| 項目 | 説明 |
|---|---|
| 管理費 | 区分所有者が毎月支払うお金。共用部分の電気代・水道代、保険料、管理委託費などを賄う |
| 管理委託費 | 管理会社に支払う委託料。管理員人件費、清掃業務費、事務管理報酬、設備点検費など |
重要なポイント: 「管理委託費の値上げ要請」があっても、管理費をいくらにするかは管理組合(総会)の決定事項であり、管理会社が一方的に決めることはできません。
管理委託契約の仕組み
国交省の「マンション標準管理委託契約書」では、以下の業務が定められています:
- 事務管理業務
- 管理員業務
- 清掃業務
- 建物・設備管理業務
国土交通省の調査では、管理委託契約が標準管理委託契約書に**「概ね準拠している」管理組合が93.8%**とされており、全国の多くのマンションが同じ枠組みで契約しています。
なぜ今、管理会社が値上げを求めてくるのか
1. 人手不足・人件費・物価の上昇
管理会社が値上げを求める最大の理由は、人件費と関連コストの上昇です。
- 管理員や清掃員の高齢化・人手不足
- 最低賃金や社会保険料の上昇
- 電気料金・清掃資材・点検コストの高騰
かつては「20年以上、管理委託費が変わっていない」というマンションも多くありますが、その間に人件費や物価は上昇しており、同じサービス水準を維持するには一定の単価見直しが避けられないケースが増えています。
2. 標準管理委託契約書の改訂
国交省は2023年に「マンション標準管理委託契約書」を改訂し、以下の内容を盛り込みました:
- 管理業務範囲の明確化
- カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応
- 働き方改革(管理員の勤務時間・休日など)の反映
- 総会・理事会のIT活用への対応
これらは管理会社にとって、従業員を守るための体制整備、IT投資や教育コストなど新たな負担を意味します。
3. 区分所有法改正と管理の高度化
2026年4月施行の改正区分所有法では、管理不全マンションへの対応など、管理会社にもより高度な法令対応が求められるようになります。
値上げ要請が来たときの法的・実務的な基本
契約と総会の二層構造
| 決まること | 決め方 |
|---|---|
| 管理委託費(管理会社に支払う金額) | 管理組合と管理会社との「管理委託契約」 |
| 管理費(区分所有者から徴収する金額) | 管理規約にもとづき、総会での普通決議 |
管理会社が一方的に管理委託費を変更することはできず、契約内容の変更=契約書の変更が必要になります。この場合、マンション管理適正化法72条にもとづき、「重要事項説明」が必要です。
解約の申入れと期間
国交省の標準管理委託契約書(第19条)では:
甲及び乙は、その相手方に対し、少なくとも三月前に書面で解約の申入れを行うことにより、本契約を終了させることができる。
つまり、管理組合からも管理会社からも、3か月以上前の書面通知で契約を終了できる仕組みになっています。
値上げ要請への具体的な検討ステップ
ステップ1:値上げ内容を「内訳」で把握する
「管理委託費が◯%アップ」という表現だけで受け止めず、内訳ベースで確認します:
- 管理員業務費(勤務時間・日数・業務内容)
- 清掃業務費(頻度・範囲)
- 建物・設備管理業務費(点検回数・項目)
- 事務管理業務費(会計・総会支援・報告書作成など)
- 管理報酬(会社側の利益部分)
ステップ2:増額の理由と「水準」を確認する
理事会としては:
- 増額理由の説明書面を求める
- 近隣・同規模・同グレードのマンションとの比較(複数社から見積りを取る)
- 管理費全体の中での位置づけ(国交省調査の平均などと比較)
を行い、「高い/安い」という印象ではなく、数値と根拠で検討することが重要です。
ステップ3:「値上げ+業務見直し」のセットで交渉する
値上げを全面拒否し続けると、管理会社から**「撤退」と告げられるリスク**も高まります。現実的には:
- 1年目は半分だけ値上げし、2年目以降に段階的に見直す
- 管理員の勤務時間を少し短縮する代わりに、IT活用で補う
- 清掃頻度や点検範囲を再検討し、費用対効果の低い部分を削る
など、「単価アップ」と「業務内容のメリハリ」をセットで交渉していくのが現実的です。
また、管理組合側も:
- 連絡窓口を一本化する
- 不必要なクレーム・過剰な要望を是正する
- 理事会の議事運営を効率化する
といった改善を提案できると、交渉はぐっと進みやすくなります。
管理会社から「撤退」を告げられたとき
まずは慌てない
管理会社から「◯年◯月末で受託を終了したい」という通知が来ても、標準管理委託契約書では3か月以上前の書面通知が必要とされており、いきなり翌月から管理が止まることは通常想定されていません。
まずは以下を確認します:
- 解約(または不更新)の通知日
- 契約終了の予定日
- 終了までの業務継続内容
- 新管理会社への引継ぎの協力範囲
管理会社変更プロジェクトとして動く
撤退が避けられない場合、理事会としては管理会社変更(リプレイス)プロジェクトとして進めます:
- 理事会での基本方針決定(値段重視か、サービス水準重視か など)
- 候補となる管理会社のリストアップ・資料提供依頼
- 現地見学・ヒアリング・見積り取得
- 比較表の作成(委託費、業務範囲、サポート内容など)
- 理事会での候補絞り込み
- 総会での管理会社変更・新管理委託契約締結の議案上程
- 現行管理会社との解約通知・新旧管理会社の引継ぎ調整
通知から総会開催・引継ぎ完了までに少なくとも3〜6か月程度は見込みましょう。
管理会社が見つからない・断られるリスク
受託を断られやすいマンションの特徴
近年、一部の管理会社では「採算が合わない・リスクが高いマンションの受託を控える」動きも見られます:
- 戸数が極端に少ない小規模マンション
- 築年数が古く、設備不良・漏水・クレームが多い
- 管理費・修繕積立金の滞納が多い
- 理事会や一部の区分所有者からの過剰なクレーム・カスタマーハラスメント
- 管理規約や会計が長年整備されていない
「管理不全マンション」とみなされるリスク
改正区分所有法では、「管理不全マンション」を減らすための仕組みが導入されます。管理会社の撤退や受託拒否が相次ぐような事態を放置すると、将来的には外部管理人の選任といった形で、区分所有者の意思決定が制約される場面も出てきかねません。
日頃からの「パートナー関係づくり」が重要
管理会社に「選ばれ続けるマンション」でいるためには:
- 管理員・担当者への過度なクレームや感情的な叱責を控える
- 理事会の判断事項と管理会社の業務範囲を明確に分ける
- 問題があれば早めに共有し、責任追及よりも改善策の検討を優先する
- 管理規約・長期修繕計画・会計の整備を進める
といった、「管理会社と管理組合はパートナー」という意識づくりが欠かせません。
【実務チェックリスト】理事会ですぐ使える!
値上げ要請が来たとき
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 通知文の受領日・増額開始予定日を確認した | □ |
| 増額率と金額(年額・月額・1戸当たり)を把握した | □ |
| 内訳(管理員費、清掃費、設備費等)ごとの増額理由を確認した | □ |
| 業務内容の変更有無を確認した | □ |
| 増額理由の説明書面を管理会社から入手した | □ |
| 同規模マンションの相場感を調べた・複数社見積りを取った | □ |
| 管理費収支への影響を試算した | □ |
| 段階的値上げや業務見直しの代替案を検討した | □ |
| 重要事項説明と総会議案の日程を調整した | □ |
撤退・契約終了の通知を受けたとき
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 契約書の解約条項と通知期間を確認した | □ |
| 正式な解約・不更新の理由を管理会社に確認した | □ |
| 契約終了日までの業務継続内容を確認した | □ |
| 新管理会社への引継ぎ協力範囲を確認した | □ |
| 管理会社選定委員会を設置した | □ |
| 新管理会社候補をリストアップ・資料請求した | □ |
| 総会開催日程と議案発送スケジュールを策定した | □ |
| 万が一の暫定対応(一時的な自主管理等)を検討した | □ |
まとめ:値上げ・撤退は「見直しのチャンス」にもなる
管理会社の値上げや撤退は、理事会にとって心理的な負担も大きいですが、一方で管理体制を見直すきっかけにもなります。
第三者の視点を入れることで:
- 管理状況の客観的な診断
- 管理規約・使用細則・委託契約の改定案作成
- 管理会社変更を含む総会までの段取り設計
などを効率的に進めることができます。
理事会や区分所有者だけで抱え込まず、マンション管理士などの専門家に一度相談してみることで、思わぬ選択肢が見えてくることも少なくありません。
専門家への相談を検討しませんか?
「管理会社から値上げを言われているが、どう交渉すればいいかわからない」「撤退通知が来て、次の管理会社をどう探せばいいか不安」——
こうした課題は、マンション管理士という専門家と一緒に取り組むことで、スムーズに解決できます。
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詳細調査報告書を読む(管理委託費値上げ・撤退問題の包括的分析)
管理会社の値上げ・撤退問題に関する包括的調査報告書
1. 基本概念・前提知識の整理
1-1. 管理組合・理事会・総会とは
-
管理組合(マンション全体の所有者団体) 区分所有者(各専有部分の所有者)全員で構成される団体で、建物・敷地・附属施設の管理を行います(区分所有法3条)。
-
理事会(管理組合の執行機関) 理事・理事長などで構成され、日常的な運営や管理会社との折衝、総会議案の準備などを行う機関です(多くは標準管理規約型)。
-
総会(最高意思決定機関) 予算・決算、管理規約や使用細則の改正、管理会社選定などの重要事項は原則として総会決議で決めます。
1-2. 管理規約・使用細則・管理委託契約の関係
-
管理規約(マンションの憲法) 共用部分や専有部分の使い方、管理費・修繕積立金の負担方法、理事会の権限など、管理の基本ルールを定める文書です。
-
使用細則(具体的なルールを定める文書) ペット飼育、駐車場、自転車置場、ベランダ使用など、生活に近い細かいルールを定めます。
-
管理委託契約(管理組合と管理会社との契約書) 国交省の「マンション標準管理委託契約書」をベースに、事務管理業務、管理員業務、清掃業務、建物・設備管理業務などの範囲・頻度・委託費を定めます。
多くのマンションは、「標準管理規約」をベースにした管理規約と、「標準管理委託契約書」に準拠した管理委託契約書のセットで運営されています。
1-3. 全部委託・一部委託・自主管理
-
全部委託方式(ほぼ全てを管理会社に任せる方式) 会計から理事会・総会の運営補助、清掃・設備点検まで管理会社が一括して担う方式。国交省の調査でも、多くの管理組合が全部委託を採用しています。
-
一部委託方式(会計だけ・清掃だけなど部分的に委託) 一部は管理組合や外部の専門家で対応し、特定業務のみ管理会社に任せる形です。
-
自主管理(管理会社に頼らない方式) 管理組合自身が管理員の手配や会計処理を行う方式。専門性・事務負担の点から、現実には少数派です。令和5年度マンション総合調査でも、調査対象のうち自主管理型は約1割とされています。
2. 値上げ要請が来たときの法的・実務的な詳細整理
2-1. 管理委託費は「契約」で決まり、管理費は「総会決議」で決まる
重要なポイントは、
- 管理委託費(管理会社に支払う金額) → 管理組合と管理会社との「管理委託契約」で決める
- 管理費(区分所有者から徴収する金額) → 管理規約にもとづき、総会での普通決議で決定(標準管理規約の場合)
という二層構造になっていることです。
管理会社が一方的に管理委託費を変更することはできず、**契約内容の変更=契約書の変更(覚書含む)**が必要になります。この場合は、マンション管理適正化法72条にもとづき、「重要事項説明」が必要とされています。
2-2. 標準管理委託契約書における「解約の申入れ」と期間
国交省の標準管理委託契約書では、次のような規定があります。
-
第18条(契約の解除) 相手方が契約上の義務を履行しない場合に、催告のうえ解除できる「債務不履行による解除」。
-
第19条(解約の申入れ)
甲及び乙は、その相手方に対し、少なくとも三月前に書面で解約の申入れを行うことにより、本契約を終了させることができる。
つまり、標準契約に準拠している場合、管理組合からも管理会社からも3か月以上前の書面通知で契約を終了できる仕組みになっています。
2-3. 契約更新・内容変更時の「重要事項説明」
管理受託契約の内容を変更する場合(たとえば管理委託費の増額)も、新たな契約締結行為に該当するため、「重要事項説明」が必要とする国交省のQ&Aが示されています。
したがって、理事会としては、
- 「値上げ案の内容を記載した新しい契約書(または覚書)」
- 「管理業務主任者による重要事項説明」
を前提に、総会で議案として審議する流れを意識する必要があります。
3. 2026年区分所有法改正と「管理不全マンション」への懸念
改正区分所有法では、
- 管理不全の専有部分・共用部分について、裁判所が管理人(弁護士など)を選任し、管理・処分を行える制度
- 所在不明区分所有者の専有部分管理制度
などが導入されます。
これは、極端に管理が行き届かず危険な状態になったマンションに対して、**司法の関与により最低限の安全を確保するための"最後の砦"**ですが、裏を返せば、
「管理会社も付かず、管理組合としても適切な管理ができない状態」=「管理不全マンション」
と評価されるリスクがある、ということでもあります。
管理会社の撤退や、受託拒否が相次ぐような事態を放置すると、将来的には「管理不全」とみなされ、外部管理人の選任といった形で、区分所有者の意思決定が制約される場面も出てきかねません。
4. 中長期的な「予防策」としてのチェックポイント
-
管理規約・使用細則の見直し 最新の標準管理規約(2025年改正版)と照合し、総会決議要件や管理者の位置づけなどをアップデートする。
-
長期修繕計画との整合 修繕積立金不足が管理費・委託費にしわ寄せされていないか。将来の大規模修繕や建替え検討に向けた管理体制を整備できているか。
-
管理計画認定制度・管理適正評価制度の活用 「管理計画認定制度(適正化法)」や「管理適正評価制度(マンション管理業協会)」の活用により、管理水準の「見える化」を図る。
-
管理会社とのコミュニケーションルール クレーム窓口を理事会に一本化する。重要な指示や要望は書面・メールで記録を残す。理事会と管理会社の定例打合せを設定する。
-
理事会の継続性確保 引継ぎ資料(理事マニュアル)の整備。理事就任へのハードルを下げる工夫(委員会制・適度な役割分担)。
5. 注意点・限界について
この記事の内容は、一般的な法制度・標準的な契約書・ガイドラインにもとづく解説です。実際には、
- 各マンションの管理規約・使用細則
- 個別の管理委託契約書の条文
- 組合の合意形成状況(過去の経緯、理事会・総会の雰囲気)
- 管理会社の事情(グループ体制、エリア戦略など)
によって、最適な対応や結論は大きく異なり得ます。
また、管理会社の債務不履行が疑われるケース、管理会社による一方的な契約解除・損害賠償の問題、区分所有者との法的紛争が発生している場合には、弁護士による個別の法的助言が必要になる場面もあります。
参考資料
ジェミニさん
AIマンション管理アドバイザー



