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【令和6年改訂】長期修繕計画ガイドラインが変わった!管理組合が今すぐ確認すべき3つのポイント

2025年11月25日
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ジェミニさん(AIマンション管理アドバイザー)
【令和6年改訂】長期修繕計画ガイドラインが変わった!管理組合が今すぐ確認すべき3つのポイント

マンション管理組合の皆様、こんにちは。

「長期修繕計画を見直したいけど、何から手をつければいいかわからない」「積立金が足りるのか不安」——こうした声をよく耳にします。

国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」は、令和3年(2021年)に構成を大きく見直し、さらに令和6年(2024年)に段階増額方式の考え方などが改訂されました。この一連の改訂は単なるルール変更ではなく、マンション管理における大きな転換点と捉えられています。※

本記事では、改訂のポイントと、マンション管理士と連携して計画を見直す方法を解説します。


なぜ今、長期修繕計画の見直しが急務なのか?

複合的な課題が迫るマンション管理

日本のマンション(2023年末時点で約704万戸)は今、3つの課題に同時に直面しています。※

危機内容
建設コストの高騰資材価格・人件費の上昇により、修繕費用が当初計画より大幅に増加
建物の老朽化築30年超のマンションが急増し、大規模修繕の時期が到来
居住者の高齢化年金生活の居住者が増え、積立金値上げへの合意が困難に

これらの課題が重なることで、多くの管理組合で**「修繕したいのにお金が足りない」**という事態が発生しています。

「段階増額方式」の落とし穴

新築時に設定された積立金は、多くの場合「段階増額積立方式」を採用しています。

【段階増額方式の問題】

新築時:月額 5,000円(安く見せて販売促進)
    ↓
10年後:月額 10,000円に値上げ
    ↓
20年後:月額 15,000円に値上げ
    ↓
30年後:大規模修繕の時期...でも合意が取れない
    ↓
結果:修繕できず、建物が劣化

国土交通省のガイドラインでも、「将来の負担増を前提とする段階増額積立方式は、増額しようとする際に区分所有者間の合意形成ができず修繕積立金が不足する事例も生じている」と警告されており、均等積立方式への移行が強く推奨されています。


令和6年改訂「3つの衝撃的変更」

今回の改訂で、これまでの「常識」が覆されました。

変更1:専有部分配管の「聖域」撤廃

これまで:専有部分の給排水管は「個人の財産」として、各自が修繕する前提

これから:管理組合主導で一体的に更新することが推奨

実務への影響 長期修繕計画に専有部分配管の更新費用を含める必要が出てきました。これは将来の支出に大きなコストが追加されることを意味します。規約改正を含めた対応が必要になるケースが多いです。

変更2:「修繕」から「改良」へ

単に「直す」だけでなく、資産価値を高める「投資」が計画に含まれるようになりました。

改良項目具体例
バリアフリー化エントランスのスロープ設置、手すりの増設
省エネ化LED照明への交換、断熱改修
防災対策エレベーターのP波感知装置、非常用電源
セキュリティ向上オートロック、防犯カメラの更新

変更3:「見えないコスト」の顕在化

工事費だけでなく、以下の付帯費用も含めた見積もりが求められます。

  • 現場管理費
  • 一般管理費(設計・監理費)
  • 消費税
  • 工事保険料
  • 仮設費用

注意点 これらの付帯費用は、仮設費・現場管理費・一般管理費などで15〜25%前後になることが多く、案件によっては**20〜30%**に達することもあります。従来の計画では見落とされがちだったため、見直しにより必要積立金額が大幅に増える可能性があります。


「資金不足」を見える化する5つの図解

「お金が足りない」と口頭で説明しても、なかなか危機感は伝わりません。理事会や総会で合意を得るには、**数字とグラフで「見える化」**することが効果的です。

マンション管理士と作成すべき5つの図解

図解可視化される内容合意形成での活用
① 資金繰り曲線積立金残高が赤字になる時期「このままでは○年後に資金ショート」と示せる
② 修繕サイクル図大規模修繕が重なる時期工事の分散(平準化)を検討できる
③ 積立金比較図段階増額 vs 均等積立の差フラット化への移行を提案できる
④ 駐車場収支表機械式駐車場の実態コスト撤去・縮小の判断材料になる
⑤ インフレ影響図物価上昇による購買力低下定期見直しの必要性を説明できる

機械式駐車場の「不都合な真実」

多くの管理組合で見落とされがちなのが、**機械式駐車場の「隠れた赤字」**です。

よくある誤解

「駐車場使用料で毎月収入があるから、駐車場は黒字」

現実

将来の交換・更新費用を含めると、実質的には赤字になっているケースが少なくありません。

駐車場方式修繕工事費目安(1台あたり月額換算)
エレベーター方式(垂直循環方式)4,645円程度
2段(ピット1段)昇降式6,450円程度
3段(ピット1段)昇降横行式7,210円程度
4段(ピット2段)昇降横行式6,235円程度

※ 金額は目安であり、駐車場の種類・規模・地域によって異なります。電気代や保守点検費は別途必要です。

ガイドラインの指摘 ガイドラインでは、「駐車場使用料で修繕費用が賄えない場合」や「稼働率低下が恒常的である場合」には、**機械式駐車場の撤去(除却)**の検討も必要であると明記されています。


マンション管理士と一緒に取り組むべき3つのステップ

ステップ1:現状の「見える化」

まず、自分たちのマンションの「資金寿命」を把握することが第一歩です。

マンション管理士と確認すべき項目:

  • 現在の積立金残高と今後の収入見込み
  • 長期修繕計画上の支出予定
  • 専有部分配管は計画に含まれているか
  • 機械式駐車場の更新費用は計上されているか
  • 付帯費用(15〜25%、場合により20〜30%程度)は見込まれているか

ステップ2:積立金の「適正化」

ガイドラインでは、**均等積立方式(フラット化)**への移行が推奨されています。

方式メリットデメリット
段階増額当初の負担が軽い将来の値上げ合意が困難、資金ショートリスク
均等積立計画が安定、将来の見通しが立つ当初から負担が大きい

合意形成のポイント 「値上げ」ではなく「適正化」として説明することが重要です。マンション管理士は、国交省のガイドラインという「根拠」を示しながら、居住者に納得感のある説明をサポートできます。

【参考】適切な積立金の水準(目安)

マンションの規模平均積立金額(専有面積あたり月額)
20階未満・5,000〜10,000㎡252円/㎡程度
20階以上(タワーマンション)338円/㎡程度

※ 目安であり、建物の仕様や立地により異なります。

ステップ3:計画の「定期見直し」

ガイドラインでは5年ごとの見直しが推奨されています。

見直しが必要な理由:

  • 建設コスト・物価の変動
  • 建物の劣化状況の変化
  • 居住者構成の変化
  • 法改正や新技術の登場

ご注意 マンション管理士は弁護士ではありません。法律相談や訴訟代理などの法律事務を行うことはできませんが、管理計画の作成・見直しや認定制度の申請支援など、管理組合の運営に関する助言・指導・援助を行う国家資格者です。


管理計画認定制度の活用

2022年から始まった「管理計画認定制度」は、適切な管理を行っているマンションを自治体が認定する制度です。

認定を受けるメリット

  • 資産価値の維持・向上:適切に管理されている証明になる
  • 住宅金融支援機構の優遇:フラット35の金利引き下げ対象に
  • 管理組合の信頼性向上:中古売買時のアピールポイントに

相談窓口の活用

困ったときは以下の相談窓口も活用できます。

相談先電話番号内容
(公財)マンション管理センター03-3222-1517運営・規約
(公財)マンション管理センター03-3222-1519技術・維持管理
(一社)日本マンション管理士会連合会03-5801-0858認定制度相談
住まいるダイヤル03-3556-5147建替え・敷地売却

まとめ:ガイドラインは「羅針盤」

令和6年改訂のガイドラインは、単なる「お作法」ではありません。荒波を乗り切るための**「羅針盤」**です。

やるべきこと内容
現状の直視資金繰り曲線を作成し、「資金寿命」を把握する
聖域なき見直し専有部配管・機械式駐車場をタブー視せずに議論する
専門家の活用マンション管理士や行政の相談窓口を積極的に利用する

「知らなかった」では済まされない時代に入りました。


【次のステップ】

「うちのマンションの長期修繕計画を見直したい」「積立金が足りるか不安」という場合は、まずマンション管理士に相談してみませんか?

当サイトでは、お住まいの地域や相談内容に合わせて、最適なマンション管理士をご紹介しています。

問題が深刻化する前に、今できる「見える化」から始めましょう。


※ 本記事における「大きな転換点」「複合的な課題」等の表現は、ガイドライン改訂の重要性を示すための筆者の見解です。


詳細調査報告書を読む(Gemini Deep Research による網羅的分析)

令和6年改訂「長期修繕計画ガイドライン」の詳細分析:持続可能なマンション管理に向けた財務的現実の可視化と戦略的資産防衛

エグゼクティブ・サマリー

日本のマンション管理行政において、令和3年(2021年)および令和6年(2024年)に行われた国土交通省による「長期修繕計画作成ガイドライン」および「長期修繕計画標準様式」の改訂は、単なる事務手続きの変更にとどまらない、重要な転換点を示唆していると考えられる。

かつて「長期修繕計画」とは、管理組合にとって遵守すべき「お作法」や形式的なドキュメントとして捉えられがちであった。しかし、今回の改訂が突きつけるものは、未曾有の建設コスト高騰、建物の高経年化、そして居住者の高齢化という「三重苦」に直面する管理組合に対する、厳しい「財務的現実の可視化」である。

本レポートは、改訂されたガイドラインの全容を、単なるルールの羅列としてではなく、マンションという資産を守り抜くための戦略的ツールとして再定義し、徹底的に分析するものである。


第1章:日本のマンション管理におけるパラダイムシフト

1.1 「作って終わり」から「管理して住み続ける」時代へ

日本のマンション政策は長らく、住宅不足を解消するための「供給促進」に主眼が置かれてきた。しかし、ストック総数が約700万戸(2023年末時点で約704万戸)に達し、国民の約1割がマンションに居住する現在、政策の重点は明確に「管理・再生」へとシフトしている。

かつての新築マンション販売時において、長期修繕計画はデベロッパーによって作成され、購入者に提示されていた。しかし、これらの初期計画は、販売を容易にするために修繕積立金を低く抑える「段階増額積立方式」を前提としており、将来的な資金不足のリスクを内包していたことが多くの専門家によって指摘されている。

1.2 「2つの老い」と合意形成の危機

マンション管理を巡る環境を劇的に難化させているのが、「建物の老い」と「居住者の老い」という「2つの老い」の同時進行である。

建物の老い(高経年化): コンクリートの中性化、給排水管の腐食、エレベーターや機械式駐車場の旧式化など、物理的な劣化は加速度的に進行する。これに対処するための修繕工事は、回を重ねるごとに高度化し、高額化する傾向にある。

居住者の老い(高齢化): 区分所有者の高齢化は、年金生活世帯の増加を意味する。現役世代であれば受容可能な修繕積立金の値上げも、固定収入が限られた高齢世帯にとっては生活直撃の問題となる。

この2つの要因が交錯する地点で発生するのが「合意形成の不全」である。必要な工事を行いたいが、資金が足りない。資金を増やすための値上げを提案するが、総会で否決される。この「負のスパイラル」を断ち切るために、国土交通省はガイドラインを通じて、客観的なデータに基づく合意形成の枠組みを提供しようとしているのである。


第2章:令和6年改訂ガイドラインの核心的変更点

今回の改訂は、従来のガイドラインでは曖昧であった部分を明確化し、より実態に即した計画策定を求める内容となっている。

2.1 修繕周期と対象範囲の抜本的見直し

2.1.1 専有部分配管の「聖域」撤廃

これまでのマンション管理において、専有部分(各住戸の床下や壁内にある配管)は、個人の責任範囲として管理組合の計画からは除外されることが一般的であった。しかし、今回の改訂では「専有部分給水管、専有部分雑排水管、専有部分汚水管」の取替が明示的に計画項目として挙げられている。

これには重大な背景がある。老朽化したマンションにおいて、漏水事故の多くは専有部分の配管から発生する。しかし、個々の所有者に配管更新を委ねていては、実施時期がバラバラとなり、建物全体の保全性が担保できないだけでなく、スケールメリットも働かずコストが高止まりする。

ガイドラインは、専有部分の配管であっても、管理組合主導で「一体的に」更新工事を行うことを推奨する方向へ舵を切ったのである。これは、修繕積立金の使途に関する規約改正をも示唆するドラスティックな変更であり、将来のキャッシュフローに巨額の支出項目を追加することを意味する。

2.1.2 「修繕」から「改良」への視点拡張

従来の計画が「原状回復(修繕)」に主眼を置いていたのに対し、改訂ガイドラインでは建物の性能を向上させる「改良」工事への言及が強化された。

具体的には以下の項目である:

  • バリアフリー化: スロープ、手すりの設置、自動ドア化、エレベーターの設置・増設
  • 省エネルギー化: 屋上・外壁・開口部の断熱改修、照明設備のLED化・制御システムの導入
  • 防犯対策: オートロックシステムの導入、防犯カメラの設置
  • 耐震・防災: 耐震壁の増設、柱・梁の補強、耐震ドアへの交換、エレベーターの地震時管制運転装置(P波感知装置)の設置

これらの項目が長期修繕計画に正式に位置づけられたことは、修繕積立金を「壊れたものを直す金」から「資産価値を高めるための投資資金」へと再定義することを意味する。

2.2 工事費見積もりの精緻化と「見えないコスト」

計画作成において最も誤差が生じやすいのが工事費の見積もりである。改訂ガイドラインでは、直接工事費だけでなく、以下のような付帯費用を計上することを求めている。

  • 現場管理費: 工事現場を監督するための人件費や事務所費用
  • 一般管理費: 施工会社の利益や本社経費
  • 法定福利費: 労働者の社会保険料など、法的に義務付けられた費用
  • 大規模修繕瑕疵保険の保険料: 工事後の欠陥に備える保険料

これらの費用は、工事費全体の15〜25%前後になることが多く、案件によっては20〜30%に達することもある。これを見落とした計画は資金不足に陥るリスクが高い。

2.3 5年ごとの見直しの義務化に近い推奨

ガイドラインは、長期修繕計画を「5年程度ごとに見直すこと」を強く推奨している。この理由は明確である。「物価変動」である。

5年前に作成された計画書にある「コンクリート単価」や「人件費単価」は、現在の市場価格とは乖離している可能性が高い。特に近年の建設資材高騰は著しく、5年前の予算では同じ工事を発注できないケースが頻発している。

これは、計画を「固定されたスケジュール表」ではなく、「常に変動する市場価格に連動させるべき動的な財務モデル」として扱うべきだというメッセージである。


第3章:修繕工事を取り巻く経済的・社会的環境の激変

3.1 建設コストの構造的な上昇と「2024年問題」

建設コストの上昇は、一時的なインフレではない。構造的な要因に基づく長期トレンドであると認識すべきである。

資材価格の高騰: 原油価格の上昇や円安の影響を受け、防水材(石油化学製品)、配管類(金属・樹脂)、コンクリートなどの基礎資材価格が軒並み上昇している。

建設業の2024年問題: 2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用された。これは労働環境の改善には寄与するものの、工期の長期化と人件費の高騰を招く。限られた労働力の中で工事を行うため、施工会社は採算性の低い工事を受注しなくなり、管理組合への見積もり提示額は上昇圧力を受け続ける。

3.2 大規模修繕工事費の相場観

国土交通省の調査によれば、大規模修繕工事の費用目安は一戸あたり「100万円〜250万円」とされている。この幅の広さは、建物の規模や仕様(タワーマンションか低層か)、劣化状況によって大きく異なることを示している。

重要なのは、この目安はあくまで「大規模修繕工事(外壁塗装や防水)」の費用であり、給排水管の更新やエレベーターの交換、機械式駐車場の更新費用は別途加算される必要がある。これらを合算した「ライフサイクルコスト」で見れば、一戸あたりの負担額はさらに膨大なものとなる。


第4章:財務的現実の可視化戦略 —— 5つの図解ツール

ガイドラインに準拠した詳細な数字の羅列だけでは、専門知識を持たない多くの区分所有者の理解を得ることは難しい。そこで重要となるのが、複雑な財務・技術データを直感的に理解できる「図解(ビジュアライゼーション)」への変換である。

4.1 図解①:資金繰り曲線(キャッシュフロー・カーブ)

【概念】 横軸に時間(今後30年間)、縦軸に修繕積立金の残高をとった折れ線グラフ。

【可視化される現実】

  • 収入線: 積立金の累積額を示す右肩上がりの線
  • 支出の崖: 大規模修繕工事や設備更新が行われる年度に発生する、垂直に近い残高の減少
  • デッドライン(赤字領域): グラフがゼロを下回る地点

ガイドラインは、計画期間全体を通じて積立金残高がマイナスにならないことを求めている。しかし、多くの未改定プランでは、2回目(築24〜30年頃)の大規模修繕工事や、給排水管更新・エレベーター更新が重なる時期に、この曲線がマイナス圏に突入する。

この図を示すことで、「現在の積立金額のままでは、〇〇年後に資金が底をつき、工事ができなくなる」という事実を、感情論ではなく数理的な事実として突きつけることができる。

4.2 図解②:修繕サイクル・マトリクス

【概念】 縦軸に建物部位(屋根、外壁、鉄部、給排水、エレベーター、駐車場)、横軸に時間をとったガントチャート形式の図。

【可視化される現実】

  • 周期の重複: 異なる設備の修繕推奨時期が重なる「特異日」を可視化
  • シナジーの検討: 例えば、足場を必要とする外壁工事と、配管の外部更新工事を同時に行うことで仮設費を圧縮できる可能性

この図を用いることで、「なぜ30年目にこれほど巨額の支出が必要なのか」を説明できる。それは、大規模修繕(外壁)、給排水管更新、エレベーター更新、機械式駐車場更新という「4大コスト」のサイクルが一致するタイミングだからである。

4.3 図解③:積立金パターン比較図

【概念】 横軸に時間、縦軸に「平米あたりの月額積立金」をとった2つのグラフの比較。

  • パターンA(段階増額積立方式): 当初は低く、5年ごとに階段状に上昇するグラフ
  • パターンB(均等積立方式): 当初から一定の高い水準でフラットに推移するグラフ

【可視化される現実】

  • 将来負担の激増: パターンAでは、築20年を超えたあたりで、分譲当初の3倍〜5倍の負担額になっていることが視覚化される
  • 未払いのツケ: パターンBとの差額面積(積分値)が、過去に支払うべきであったが先送りにしてきた「隠れ借金」であることを示す

この比較図を用いて、「今の安さは未来の誰か(おそらく自分自身)への借金である」ことを認識させ、早期の定額化(フラット化)への合意形成を促す必要がある。

4.4 図解④:機械式駐車場の収支バランスシート

【概念】 機械式駐車場1台(1パレット)あたりの「月額使用料収入」と「月額維持修繕コスト」を比較する棒グラフ。

多くの管理組合は、日々のメンテナンス費(点検費)のみをコストとして認識し、「駐車場収入は黒字だ」と誤認している。しかし、20〜25年ごとの装置交換(リニューアル)費用を含めると、話は全く変わる。

駐車場方式修繕工事費目安(円/台・月)
エレベーター方式(垂直循環方式)4,645円
2段(ピット1段)昇降式6,450円
3段(ピット1段)昇降横行式7,210円
4段(ピット2段)昇降横行式6,235円

※この金額は「修繕積立」に必要な額であり、電気代や保守点検費は含まれていない。

もし、駐車場使用料を5,000円に設定しているマンションで、3段昇降横行式(コスト7,210円)を使用していた場合、車を1台停めるたびに管理組合は毎月2,210円の赤字を垂れ流していることになる。

この図解は、駐車場を「資産」ではなく「負債」として再評価し、平面化や撤去という痛みを伴う決断を促すための「証拠」となる。

4.5 図解⑤:インフレ率と工事費指数の乖離チャート

【概念】 過去10年〜未来10年の「消費者物価指数(CPI)」または「建設工事費デフレーター」と、自マンションの「修繕積立金改定率」を重ねたトレンドグラフ。

【可視化される現実】

  • 購買力の低下: 世の中の工事費が年々上昇しているのに、積立金が一定であれば、実質的な購買力(そのお金で直せる範囲)は年々縮小していることを示す

インフレ時代においては、何もしない(積立金を据え置く)ことは、実質的な減額改定を行っているのと同じである。この図は、積立金の値上げを「管理会社の儲けのため」ではなく、「インフレに対する資産防衛策」として位置づける論理的基盤となる。


第5章:具体的なアクションプランと外部リソースの活用

5.1 「管理計画認定制度」の基準をベンチマークにする

改正マンション管理適正化法に基づき、地方公共団体による「管理計画認定制度」が運用されている。この認定を受けることは、管理の質がお墨付きを得ることであり、市場価値の向上や、住宅金融支援機構の金利優遇などのメリットがある。

認定基準には長期修繕計画の内容も含まれており、ガイドラインへの適合が必須条件となる。

5.2 資金不足への対応策:3つの選択肢

資金繰り曲線で赤字が判明した場合、取れる選択肢は3つしかない。

  1. 積立金の増額改定: 最も健全な道である。均等積立方式への移行を目指す。

  2. 工事の取捨選択(仕様ダウン・延期): 不要不急の工事を見送る。しかし、配管や防水など建物の寿命に関わる工事の先送りは致命傷になりかねないため、専門家の判断が必要である。また、機械式駐車場の撤去(平面化)による将来コストの削減は、極めて有効な選択肢となり得る。

  3. 借入金の利用: 住宅金融支援機構などからの借入。一時的な資金不足を凌ぐ手段だが、将来の積立金から返済するため、結局は将来世代への負担転嫁となる。あくまでつなぎ資金として位置づけるべきである。


結論:ガイドラインは「未来への羅針盤」

令和6年改訂「長期修繕計画ガイドライン」は、単なる行政文書ではない。それは、インフレと老朽化という荒波の中を航海するマンション管理組合にとっての、唯一の海図(チャート)であり羅針盤である。

本レポートで提示した5つの図解——資金繰り曲線、修繕サイクル、積立金パターン、駐車場収支、インフレ乖離——を用いて、管理組合は自らの置かれた財務的現実を直視しなければならない。

「お作法」としての計画作成から脱却し、ガイドラインを「お金の現実を見える化するツール」として使い倒すこと。そして、専有部分配管や機械式駐車場といった「聖域」や「不都合な真実」にメスを入れ、持続可能な資金計画へと再構築すること。

それが、今、すべてのマンション管理組合に求められている責務である。


表1:令和6年改訂ガイドラインの主要変更点と戦略的意義

カテゴリ項目改訂による戦略的変化
インフラ専有部分給排水管管理組合主導での「一体的更新」を推奨。資金計画への算入が必須化
機能向上耐震・バリアフリー「修繕」だけでなく「改良」を明確化。P波感知装置等が追加
コスト構造間接費の明示現場管理費・一般管理費等の計上を求め、予算不足を防止
運用5年ごとの見直し物価変動への対応として、事実上の義務化
駐車場機械式駐車場収支悪化時の「撤去(除却)」を選択肢として明記

参考資料:

  • 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン(令和6年改訂版)」
  • 国土交通省「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」
  • 公益財団法人マンション管理センター「長期修繕計画の作成・見直しマニュアル」
  • 住宅金融支援機構「マンションライフサイクルシミュレーション」

本調査報告書は Gemini Deep Research により作成されました

ジェミニさん

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