「建替えれば何とかなる」は、もう前提にできない──建築費が上がり、解体にも費用がかかるいま、理事会が先に確かめること
国が把握する近年の建替え事例では、区分所有者の平均負担額が大きく増えています。背景には、建築費の上昇に加え、建替えで増やせる床が減っていることがあります。再生の手法の種類、費用の仕組み、解体の費用負担、理事会がいま最初にやることを案内します。

マンション管理士コネクトの相談コンシェルジュ、フクロウのコネルです。築年数が進んだマンションで理事をしていると、住民や管理会社から「そろそろ建替えの話も考えておいたほうがよいのでは」と言われる場面があります。言われた側は、何から手を付ければよいのか分からないまま、次の理事会が来てしまいがちです。
この記事で持ち帰ってほしいことは三つです。一つ目は、建替えを「負担ゼロ」の前提で考えることが難しくなっていて、その背景には建築費の上昇だけでなく、建替えで増やせる床が減っていることもあると知ること。二つ目は、再生の道は建替えだけではなく、法改正で多数決によって選べる手法が増えたこと、そして解体の有無や費用を負担する人は手法によって異なると知ること。三つ目は、いま理事会がやるのは決めることではなく、安全の確認と手元資料の整理、勉強会から始めることです。
すぐに大きな決断をする必要はありません。まず手法の種類を一枚の表で押さえ、次に費用の仕組みがどう変わったかを見て、最後にいま理事会がやることを順番に並べます。
マンション再生の手法とは、どんな種類があるのか
再生の手法は、国が令和8年3月に出した「マンション再生等手法の比較検討マニュアル」に整理されています。マニュアルは、改修、建替え、建物更新、建物敷地売却、建物取壊し敷地売却、取壊しを「マンションの再生等」として整理していて、下の表はこの六つを並べたものです。マニュアルの全体図には、建物が滅失した後や取り壊した後に選ぶ「再建」と「敷地売却」も示されていますが、ここでは、いま建物が建っている段階で直接選ぶ六つに絞ります。「ひとことで言うと」の列は、私コネルの補足です。
| 呼び方 | 何をするか | ひとことで言うと | 出てくる資料 |
|---|---|---|---|
| 改修 | 修繕(傷んだ部分の修理・取替え)と改良(性能や機能の引き上げ)で建物全体の性能を改善する工事 | 建物を残して直し、性能を高める | 比較検討マニュアル(令和8年3月) |
| 建替え | 既存の建物を取り壊して新しい建物を建てる | 更地にして建て直す | 比較検討マニュアル(令和8年3月) |
| 建物更新(一棟リノベーション) | 躯体(骨組み)を残して共用部分を変え、全ての専有部分の形・面積・位置関係のいずれかを変える工事 | 骨組みを生かして共用部分と全ての専有部分を作り直す | 比較検討マニュアル(令和8年3月) |
| 建物敷地売却 | 建物と敷地の権利をまとめて第三者に売る | 建物ごと手放す | 比較検討マニュアル(令和8年3月) |
| 建物取壊し敷地売却 | 建物を壊してから敷地を売る | 壊して土地だけ売る | 比較検討マニュアル(令和8年3月) |
| 取壊し | 建物を取り壊す | 建物だけを取り壊す | 比較検討マニュアル(令和8年3月) |
建替え、建物更新、取壊しは、原則として区分所有者数と議決権の各5分の4以上で決議します。建物敷地売却と建物取壊し敷地売却は、区分所有者数、議決権、敷地利用権の持分の価格(土地の権利の持分の価額)の三つについて、それぞれ5分の4以上が必要です。法令で定める客観的な事由がある場合は、それぞれ4分の3以上に緩和されます。改修は、工事の内容や規模、規約、予算によって、理事会の決定で済むもの、普通決議、特別決議のいずれになるかが変わります。決議要件の中身や所在不明者の扱いは、区分所有法改正の5つのポイントで扱っているので、この記事では繰り返しません。
そもそも、建替えの費用はどう賄われてきたのか
容積率に余裕がある建替えでは、増やした住戸を売却し、その代金で区分所有者の負担を軽くできる場合があります。近年は、建替えで増やせる床が少なくなる傾向に加え、建築費も上がっていて、建替えの事業収支を厳しくする要因が重なっています。
容積率とは、敷地の広さに対してどれだけの床面積を建ててよいかの割合です。昔に建てられたマンションの中には、いまの法令で許される床面積をかなり残しているものがあります。そこで建替えのときに住戸を増やし、増えた分の住戸(余剰床)を事業者に売って、その代金を工事費に充てます。建替え後に増やせる住戸が多いほど、その売却代金を事業費に充てやすくなり、もとの区分所有者の持ち出しは小さくなります。反対に、増やせる住戸が少なければ、区分所有者が負担する金額は大きくなりやすくなります。容積率に余裕の大きい事例では、余剰床の売却によって、もとの区分所有者の負担を小さくできる場合がありました。
国が把握している建替え事例を年代ごとに見ると、この「増やせる分」が減ってきたことが数字に出ています。
一つ目は建替後の容積率を100としたときの建替前の値、二つ目は区分所有者の平均負担額で、どちらも国土交通省と法務省の改正法の説明資料に載っている値です。三つ目は建設物価調査会の指数で、東京の集合住宅・鉄筋コンクリート造の工事原価を2015年平均を100として表したものです(2026年8月の暫定値)。建替後の建物を100としたとき、建替前に使っていた容積率は1970年代の事例で23.0でしたが、2020年代の事例では65.9まで上がっています。別の集計では、区分所有者の平均負担額が、1996年以前の事例の約344万円から、2017年から2021年の事例では約1,941万円に増えています。二つのグラフは集計の区切りが違うので、同じ事例を追ったものではありません。また国が把握している事例の平均なので、自分のマンションの見積とは別のものです。
三つ目は建築費そのものの上がり方です。建設物価調査会の建築費指数では、東京の集合住宅・鉄筋コンクリート造の工事原価指数が2026年8月の暫定値で146.7となり、前の年の同じ月を5.3%上回っています。マンション工事の実際の価格そのものではありませんが、公共工事の積算に用いる国の設計労務単価も、令和8年3月適用分の全国・全職種単純平均で前年度比4.5%上がり、14年続けての引上げになっています。増やせる住戸が少なくなる傾向と、建てる費用の上昇。この二つが、いまの建替えの事業収支を厳しくする要因です。
法改正では、隣接地の所有権・借地権や、底地権(借地権が設定されている土地の所有権)を、建替え後のマンションの区分所有権へ権利変換できる仕組みも設けられました。隣接地などを取り込んで建物の規模を確保しやすくするための手当てですが、それだけで区分所有者の負担がなくなるわけではありません。
解体の費用にも目を向けておく必要があります。取壊し決議による除却事業では、事業に賛成したかどうかによらず、各区分所有者が除却の費用を負担すると、国土交通省の「マンション除却事業の解説」に書かれています。建替えや売却では、解体するかどうかも含め、誰がいつ解体を行い、費用を事業の中でどう賄うかを、手法ごとに確かめることになります。費用の確保の仕方としては、解体のための積立を事前に積むこと、一時金を集めること、修繕積立金の使い道を見直すことが挙げられていて、要除却等認定(耐震性の不足など法令で定める基準に当たることを行政が認定する仕組み)を受けたマンションでは住宅金融支援機構の融資を使える場合もあります。加えて令和4年4月以降に着手する建物の解体工事のうち、解体の対象となる床面積の合計が80平方メートル以上の場合は、施工業者(元請業者)が石綿(アスベスト)の事前調査の結果を都道府県等と労働基準監督署に報告する必要があり、解体には調査や手続も伴います。解体に必要な費用や調査、手続も、事業計画に織り込む必要があります。
では、いま何をすればよいのか
決めるのはまだ先です。いまは安全面を確かめ、書類を集めて、勉強会から始めます。
最初にやるのは、安全面や衛生面で急いで対応が要る問題がないかの確認です。耐震性、火災に対する安全性、外壁の落下、給排水設備などに懸念があれば、まず専門家による診断を頼むかどうかを議題にします。これらの一部は、決議要件を引き下げる法令上の「客観的な事由」にも関係しますが、当たるかどうかは法令の基準に照らした専門的な判断が要るもので、理事会だけで決めるものではありません。
次に手元の書類を集めます。竣工図(完成時の図面)、敷地の用途地域と容積率が分かる資料、耐震診断を受けたことがあるかどうか、長期修繕計画と修繕積立金の残高、管理規約のうち修繕積立金の使い道を定めた条文を、理事会の机の上にそろえます。これらの資料が足りないと、各手法を具体的に比べることが難しくなります。
そのうえで、国のマニュアルにある「準備段階」の流れを、今後の検討の流れとして整理します。マニュアルでは、有志や理事会の勉強会、建物診断や似た事例の情報収集、いまの状態と将来像についての基礎的な検討、そして管理組合として検討を始めることの合意、という順で整理されています。実際には、情報を集めながら検討の中身を見直すなど、行き来しながら進みます。その次の「検討段階」で検討組織を作り、専門家を選び、手法を比べることになりますが、安全上の緊急性がなければ、いまの理事会が目安にするのはこの準備段階です。
勉強会や専門家への初期相談の費用をどこから出せるかは、法令、管理規約、予算、総会決議の内容を確かめて判断します。いまの規約で予定されていない使い方であれば、支出の承認だけでなく、規約の変更が先に必要になる場合もあります。
初動期に管理組合から相談を受けるのはマンション管理士や管理業者、コンサルタントなどだと、国のマニュアルにも書かれています。準備段階で「何を調べればよいか」を一緒に整理してくれる相手を探すなら、専門家を探すで地域と分野から当たってみるのが近道です。
住民への説明は、「建替えます」ではなく「選択肢を調べ始めます」と伝えます。結論が決まったかのように聞こえると、費用や引っ越しへの不安から、反対の声が先に出ることがあります。改修を続ける道と比べるには、いまの長期修繕計画で積立金がどこまで持つかを先につかんでおくと物差しになります。手元の計画の数字で試すなら 長期修繕計画の簡易シミュレーション があります。
建替え、建物更新、建物敷地売却、建物取壊し敷地売却、取壊しを実施するかどうかを最終的に決めるのは総会(区分所有者)です。理事会は、初動期の安全確認、情報収集、勉強会、総会に出す議案の準備を担い、専門家は判断材料を整えます。理事会だけで「建替える」と決めるものではないと最初に共有しておくと、理事の負担感や住民の警戒感を和らげやすくなります。
よくある質問
Q. 建替えを言い出したら、反対する人と揉めませんか?
最初から「建替えを目指す」と決め打ちして呼びかけると、費用や引っ越しへの不安から反対が先に出やすくなります。初動期には改修や建物更新も含めて選択肢を並べ、まず現状を知るための勉強会だと伝えることで、対立を避けながら話を始めやすくなります。検討組織を正式に設ける段階では、管理規約を確かめ、組織の設置や活動費について総会で合意するのが基本です。
Q. 一棟リノベーションなら安く済みますか?
骨組みを残す建物更新は、建替えに比べて工事費や工期、廃棄物を抑えられる可能性があると国のマニュアルに書かれています。ただし躯体の傷み方、耐震補強の範囲、配管をどう更新するかで金額は変わります。安く済むかどうかは、建物調査と専門家の試算が要ります。
Q. 解体のお金は修繕積立金から出せますか?
まず、いまの管理規約で修繕積立金の使い道に含まれるかを確かめます。国の「マンション除却事業の解説」も、費用の確保の仕方の一つとして修繕積立金の使途の見直しを挙げています。含まれない場合は、総会で支出を決めるだけで足りるのか、先に規約の変更が要るのかを、マンション管理士などの専門家と確かめることになります。
まとめ
- 建替えを「負担ゼロ」の前提で考えることが難しくなっており、背景には建築費の上昇に加え、建替えで増やせる床が減っていることがあります。
- 再生の道は建替えだけではなく、多数決によって選べる手法が増えました。取壊し決議による除却事業では、各区分所有者が除却費用を負担します。ほかの手法では、解体の有無と、誰が費用を負担するかを手法ごとに確認します。
- いま理事会がやるのは決めることではなく、安全を確かめ、書類をそろえ、勉強会から始めることです。
再生の検討は年単位で進む取り組みです。まず手元の書類を確認して、しっかり取り組む土台を作るところからです。
出典
- 国土交通省「マンションの再生等について」 ── 改正法の施行日、令和8年3月策定のマニュアル一覧
- 国土交通省「マンション再生等手法の比較検討マニュアル」(令和8年3月)(PDF) ── 第1章 再生手法の種類(p.22-37)、第2章 準備段階(p.46-57)、専門家の関与(p.43)
- 国土交通省・法務省「マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法」(令和7年10月)(PDF) ── p.8 建替えに際しての区分所有者の負担額の増加(負担額の単位は千円、N=139)、p.16-17 決議要件と客観的事由、p.34 隣接地・底地の権利変換
- 建物の区分所有等に関する法律(e-Gov 法令検索) ── 第62条(建替え決議)、第64条の5〜第64条の8(建物更新・建物敷地売却・建物取壊し敷地売却・取壊しの各決議)
- 国土交通省「マンション除却事業の解説」(令和8年3月)(PDF) ── p.4 費用負担と費用確保の手段
- 一般財団法人建設物価調査会「建設物価建築費指数」2026年8月分サマリー(PDF) ── 集合住宅(RC造)工事原価指数、2015年平均を100、東京、暫定値
- 国土交通省 報道発表「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」
- 環境省 報道発表「4月1日から石綿の事前調査結果の報告制度がスタートします」
制度・条件の確認日:2026-09-14
管理規約の見直し
この記事の内容を、自分のマンションの規約に落とし込むには
記事で扱ったルールは、管理規約に書かれていて初めて総会で使えます。改正区分所有法(2026年4月1日施行)に合わせて、現行規約のどこを直すかを洗い出すところから始めます。
管理規約スタジオは、現行規約を取り込むと標準管理規約・改正法との差分を条文単位で洗い出し、新旧対照表と改正案を出力する実務者向けツールです(運営会社のサービス)。
管理規約スタジオを見るコネル
管理組合の相談コンシェルジュ
管理組合を中心に、情報・ツール・専門家をつなぐ、管理コネクトの案内役です。 制度や実務をかみくだいて整理し、判断はみなさまと専門家に委ねます。 口ぐせは「いっしょに、よい答えを見つけよう」。
