
マンション管理組合の皆様、こんにちは。
「所有者の行方がわからず、修繕の決議ができない」「建替えの話が出ているが、全員の合意なんて現実的に無理だ」——こうした悩みを抱える管理組合は少なくありません。
実は、こうした長年の課題を解決する歴史的な法改正が、2026年(令和8年)4月1日に施行されることが決まりました。
政府は「建物の老い」と「居住者の老い」という**『二つの老い』**による危機を回避するため、区分所有法をはじめとする関連法を抜本的に改正します。この改正は、日本のマンション政策史における最大の転換点と言われています。
本記事では、この法改正が私たちのマンションライフや資産価値にどのような影響を与えるのか、重要ポイントをわかりやすく解説します。
なぜ今、法改正が必要なのか?
「二つの老い」という国家的危機
国土交通省の資料によれば、2024年時点で築40年を超えるマンションは約137万戸に達しています。この数字は今後10年で約2倍、20年で約3.4倍に急増すると推計されています。
一方で、初期に分譲されたマンションでは区分所有者の多くが高齢者となり、認知機能の低下や相続の未登記などにより、管理組合の運営主体が実質的に不在となるケースが増えています。
問題の本質 大規模修繕や建替えなど重大な決断が必要なのに、それを決める管理組合が機能不全に陥っている——このギャップを埋めるのが今回の法改正です。
1. 所在不明者を決議の母数から除外できる
これまでマンション管理の最大の壁となっていたのが、**「所在不明の所有者」**の存在です。
これまでの問題点
現行法では、連絡がつかない人も「全所有者」の母数に含まれるため、彼らが反応しないことは**事実上の「反対票」**と同じ意味を持っていました。
例えば、100戸のマンションで建替え決議(5分の4以上の賛成が必要)をする場合、20戸が所在不明だと、残りの80戸全員が賛成しても可決できない状態でした。
改正後はこう変わる
裁判所の認定を受けることで、所在不明者を決議の母数から除外できるようになります。
| 状況 | これまで | これから |
|---|---|---|
| 100戸中20戸が所在不明 | 母数100戸のまま(80戸賛成必要) | 母数80戸に縮小(64戸賛成で可決) |
これにより、大規模修繕や管理規約の変更など、これまで「所有者が見つからない」という理由で頓挫していたプロジェクトが動き出せるようになります。
2. 「一棟リノベーション」が法的に可能に
「建替えたいけれど、建築費高騰で採算が合わない」「今のままでは老朽化が深刻」——そんなマンションの救世主となるのが、新設された**「建物更新決議」**です。
これまでの問題点
建物の躯体(骨組み)を残して内装・設備を全交換するような大規模リノベーション(一棟リノベ)は、法的な扱いが曖昧で、実質的に**「全員同意」が必要**と考えられていました。
改正後はこう変わる
**「5分の4以上の賛成」**があれば、一棟リノベーションが可能であることが法的に明確化されました。
- メリット: 建替えよりもコストを抑えつつ、新築同様の機能や内装に生まれ変わらせることができます
- 活用例: 立地は良いが建物が古いマンションや、歴史的価値のあるヴィンテージマンションの再生
ポイント 反対者がいても事業を進められる法的裏付けができたため、「建替え」か「我慢」かの二択ではなく、第三の選択肢が生まれました。
3. 管理不全住戸への強制介入が可能に
「ゴミ屋敷化している部屋がある」「所有者が海外にいて管理費が滞納されている」——こうした個人の専有部分(部屋の中)の問題に対し、これまでは「個人の持ち物だから」と管理組合は手出しできませんでした。
改正後はこう変わる
管理不全によりマンション全体に迷惑をかけている場合、裁判所が「管理人」を選任し、強制的に管理(最悪の場合は売却処分)できる制度が導入されます。
所有者不明の空き部屋の場合:
- 管理人が漏水修理や腐敗物撤去などの保存行為を実施
- 賃貸に出して収益を得る管理行為も可能
- 裁判所の許可を得て売却し、新しい人に住んでもらうことも可能
海外居住オーナーの場合:
- **「国内管理人」**を置くことが求められるようになります
- 連絡や督促が国内の代理人を通じてスムーズに行えるように
これはマンションの財政健全化に直結する重要な改正です。
4. 建替え決議の要件が条件付きで緩和
建替え決議については、基本要件は「5分の4以上」で維持されていますが、特定の条件下で緩和されます。
| 状況 | 決議要件 |
|---|---|
| 通常の老朽化 | 各5分の4以上(従来通り) |
| 耐震性不足等の認定あり | 各4分の3以上に緩和 |
| 大規模災害による被災 | 各3分の2以上に緩和 |
また、建替え事業の採算性を確保するため、隣接地や底地の取り込み、高さ制限の特例なども導入されます。
5. 総会運営のデジタル化と効率化
「出席者多数決」の導入
これまでは、無関心で総会に来ない人も母数に含まれていたため、出席者全員が賛成しても可決できないケースがありました。
改正後は、軽微な変更事項などについて、**「出席した人の過半数」**で決められる範囲が広がります。
WEB総会の法的整備
- 招集通知期間の柔軟化(規約で伸縮可能に)
- デジタル規約(PDF等での保管・閲覧)の法的効力が明確化
改正のポイントまとめ
| 項目 | これまで | これから |
|---|---|---|
| 所在不明者 | 決議母数に含まれる | 裁判所認定で除外可能 |
| 一棟リノベ | 全員同意が必要 | 5分の4以上で可能 |
| 管理不全住戸 | 介入不可 | 管理人による強制管理・処分可能 |
| 海外居住者 | 連絡困難 | 国内管理人の選任義務化 |
| 総会運営 | 全員母数 | 出席者多数決の範囲拡大 |
あなたのマンションは「勝ち組」になれるか?
この法改正は、「やる気のある管理組合」にとっては最強の武器となります。
一方で、所有者が無関心なまま放置するマンションは、法的な介入を受けたり、市場から淘汰されたりするリスクが高まります。政府は「管理計画認定制度」の取得割合を、現在の約3%から5年後に20%まで引き上げることを目標にしています。
2026年4月1日の施行に向けて、いま私たちがすべきことは一つ。「自分たちのマンションをどうしたいか」という議論を始めることです。
【次のステップ】マンション管理士と一緒に解決しませんか?
「自分のマンションの管理規約がこの新法に対応できるか不安」「所在不明者がいて困っている」「建物更新や建替えについて検討したいが、何から始めればいいかわからない」——
こうした課題は、マンション管理士という専門家と一緒に取り組むことで、スムーズに解決できます。
マンション管理士ができること
- 管理規約の改定支援: 2026年の新法に対応した管理規約への見直しと改定案の作成
- 現状の問題整理: 所在不明者の調査方法、管理不全住戸への対応など、法的手続きを含めたアドバイス
- 合意形成のサポート: 建物更新・建替えの検討、総会での説明資料作成、住民説明会の実施
- 管理組合運営の改善: デジタル化への対応、第三者管理者導入の検討など
当サイトでは、マンション管理士を紹介しています
マンション管理の課題に精通した専門家が、あなたのマンションに最適なソリューションを提案します。まずは専門家を探すページから、相談内容や物件の規模に合った管理士を見つけてください。
候補が見つかりましたら、事務局までお問い合わせいただければ、マッチングをサポートいたします。
2026年4月の施行まで、残された時間は限られています。 今こそ、専門家の力を借りて、あなたのマンションの未来を切り拓きましょう。
詳細調査報告書を読む(区分所有法等改正の包括的分析)
令和7年公布・令和8年施行 区分所有法等改正に関する包括的調査報告書
第1章 序論:マンション政策の歴史的転換点と構造的背景
1.1 「二つの老い」がもたらす国家的な危機
我が国の住宅政策において、区分所有建物(マンション)は戦後の高度経済成長期以降、都市部への人口集中を受け止める重要な社会的インフラとして機能してきた。しかし、2020年代半ばを迎えた現在、この巨大なストックは未曾有の危機に直面している。それは、「建物の老い」と「居住者の老い」という、いわゆる「二つの老い」の同時進行である。
国土交通省の資料によれば、2024年(令和6年)時点で築40年を超えるマンションは約137万戸に達しており、マンションストック全体の約2割を占めている。この数字は静的なものではなく、今後10年間で約2倍、20年間で約3.4倍に急増すると推計されている。
一方で、居住者の高齢化も深刻である。初期に分譲された団地型マンションなどでは、区分所有者の多くが高齢者となり、認知機能の低下や介護施設への入居、あるいは相続の未登記などにより、管理組合の運営主体が実質的に不在となるケースが増加している。
1.2 法制度の機能不全と改正の必然性
現行の「建物の区分所有等に関する法律(以下、区分所有法)」は、民法の共有理論を基礎としつつ、共同住宅特有の調整を行う特別法として発展してきた。しかし、その根底にあるのは「所有権の絶対性」であり、個人の財産権に対する保護が極めて厚く設計されていた。
そのため、建替えや大規模な共用部分の変更といった、区分所有者の権利に重大な影響を及ぼす意思決定には、極めて高い決議要件(特別多数決)が課されてきた。しかし、所有者の所在が不明であったり、無関心層が増加したりする現代において、この厳格な要件は「合意形成の麻痺(グリッドロック)」を引き起こしている。
この状況を打破するため、法務省と国土交通省は連携し、民事法制(財産権の調整)と住宅政策(良質なストックの形成)の両面からアプローチを行う大規模な法改正に着手した。
1.3 改正法の包括的体系と基本方針
本改正は、単なる区分所有法の一部修正ではない。「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)」や「マンションの建替え等の円滑化に関する法律(マンション建替え円滑化法)」、さらには被災マンション法を含む、関連法制の包括的なパッケージ改定である。
改正の基本方針は、以下の三点に集約される。
- 管理の円滑化: 所有者不明化が進む中で、日常的な管理や修繕を滞らせないための仕組みの導入
- 再生の円滑化: 建替えや一棟リノベーションにおける決議要件の緩和とプロセスの明確化
- 被災時の対応強化: 災害多発国である日本の現状を踏まえた、迅速な復旧・復興のための特例措置の拡充
第2章 決議要件の構造改革:合意形成のボトルネック解消
2.1 区分所有権の処分を伴わない決議の円滑化
従来の区分所有法第17条では、共用部分の重大な変更には、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による決議が必要であった。この「4分の3」という要件は、大規模修繕工事におけるバリアフリー化や耐震補強などを行う際に、大きな障壁となっていた。
改正法では、以下の多層的なアプローチでこの要件を緩和している。
第一に、「所在等不明区分所有者」の母数除外である。 裁判所の認定を受けることで、所在が不明な区分所有者を決議の母数から除外することが可能となった。これにより、例えば全戸数の2割が所在不明であっても、残りの8割の中での多数決で意思決定が可能となる。
第二に、「出席者多数決」の導入である。 区分所有権の処分を伴わない事項については、集会(総会)に出席した区分所有者の多数決で決することが可能となる方向性が示されている。
第三に、特定の瑕疵除去に関する要件の引き下げである。 共用部分の設置又は保存に瑕疵があり、他人の権利又は法律上保護される利益が侵害されるおそれがある場合において、当該瑕疵の除去に関して必要となる共用部分の変更については、決議要件が従来の「4分の3」から「3分の2」へと引き下げられた。
2.2 所在不明区分所有者への法的対応の強化
「所在等不明区分所有者」とは、住民基本台帳や不動産登記簿上の住所を調査してもなお、その所在を知ることができない者を指す。
改正法では、以下のプロセスを経て決議母数からの除外が行われる。
- 調査義務の履行: 管理組合は、住民票の取得や現地調査など、可能な限りの調査を行う義務を負う
- 裁判所への申立て: 調査を尽くしても所在が不明な場合、裁判所に認定を求める申立てを行う
- 公告と異議申立て期間: 裁判所は公告を行い、一定期間内に異議の申し出がないかを確認する
- 認定と除外: 異議がない場合、裁判所は当該所有者を所在不明と認定し、決議において母数から除外することを許可する
第3章 新たな再生手法:「建物更新」と「建替え」の二層構造
3.1 建物更新決議(一棟リノベーション)の創設
近年、建築コストの高騰や、容積率の余剰がない既存不適格マンションの増加により、「建替え」の経済合理性が成立しないケースが増えている。
改正法により新設された「建物更新決議」は、この法的グレーゾーンを解消するものである。この決議は、「区分所有者及び議決権の各5分の4以上」の多数で決すると定められた。
これにより、一部の反対者がいても、建物全体のリノベーション事業を進めることが可能となる。5分の4という要件は依然として高いが、全員同意という「不可能な壁」が取り払われた意義は大きい。
3.2 建替え決議要件の多様化と周辺制度の整備
建替え決議については、基本要件は「5分の4以上」で維持されているが、特定の条件下での緩和措置が導入されている。
| 状況 | 決議要件 | 備考 |
|---|---|---|
| 原則 | 各4/5以上 | 通常の老朽化による建替え |
| 耐震性不足等 | 各3/4以上 | 特定行政庁による認定等が必要 |
| 被災マンション | 各2/3以上 | 政令指定災害により甚大な被害を受けた場合 |
また、建替え事業の採算性を確保するため、隣接地や底地の所有権等を建替え後のマンションの区分所有権に変換することを可能にする仕組みや、高さ制限の特例が導入された。
第4章 管理不全・所有者不明専有部分への介入
4.1 所有者不明専有部分管理制度
所有者が不明であり、かつ管理が行われていない専有部分に対して、裁判所が管理人を選任し、管理させる制度である。
管理人は、対象となる専有部分の管理・処分権限を持つ。
- 保存行為: 漏水の修理、腐敗物の撤去など
- 管理行為: 賃貸に出して収益を得るなど
- 処分行為: 裁判所の許可を得て、当該住戸を第三者に売却する
特に「売却(処分)」が可能になった点は革命的である。これにより、所有者不明のまま放置されていた住戸が市場に還流され、新たな居住者が入居することで管理費収入も復活する。
4.2 管理不全建物管理制度
所有者が判明している場合でも、適切な管理を行わず、他人の権利利益を侵害しているケース(ゴミ屋敷、悪臭、危険物の放置など)についても、管理人による管理を命ずることができる。
4.3 国内管理人制度
海外投資家による日本のマンション購入が増加しているが、管理費の滞納や連絡不能といったトラブルも頻発している。これに対応するため、国内に住所等を有しない区分所有者は、国内に住所等を有する者を管理人として選任できる(場合によっては義務化される方向性)こととなった。
第5章 デジタル化と外部専門家の活用
5.1 WEB総会とデジタル規約
- 招集通知期間の柔軟化: 招集通知の発送期間(原則1週間前)を規約で伸縮可能とすることが明記された
- デジタル規約: 管理規約を電磁的記録(PDF等)で作成・保管し、WEBサイト等で閲覧可能にすることの法的効力が明確化された
5.2 第三者管理者方式と利益相反防止
管理会社やマンション管理士等の専門家が理事長等の役職に就く「第三者管理者方式」について、管理業者が管理組合の管理者等を兼ね、工事等の受発注者となる場合、自己取引等に関する区分所有者への事前説明を義務化する措置が導入された。
第6章 災害対応と被災マンションの再生
大規模災害発生時における迅速な復旧・復興を支援するため、被災マンション法の特例措置が拡充された。
- 再建・取壊し決議の緩和: 政令で指定された大規模災害により被災したマンションについては、再建等の決議要件が緩和される
- 敷地売却の円滑化: 建物取壊し敷地売却決議についても、要件緩和や手続きの簡素化が図られる
また、外壁剥落等の危険があるマンションに対し、自治体が報告徴収、助言・指導、勧告を行う権限が明確化された。
第7章 主要データおよび制度対照表
| 項目 | 現行法・課題 | 改正法・新制度 | 期待される効果 |
|---|---|---|---|
| 所在不明者 | 決議母数に含まれる(事実上の反対票) | 決議母数から除外可能(裁判所認定) | 合意形成の円滑化、死に票の排除 |
| 共用部分変更 | 著しい変更は3/4以上の賛成が必要 | 所在不明者除外が可能。客観的必要性がある場合は2/3に緩和 | バリアフリー化、耐震改修等の促進 |
| 一棟リノベ | 明確な規定なし(全員同意が必要と解釈) | 建物更新決議(4/5以上)を新設 | 建替え以外の再生選択肢の確立 |
| 建替え | 4/5以上の賛成が必要 | 要件は4/5維持だが、認定事由により緩和(3/4, 2/3など) | 老朽化・被災マンションの再生促進 |
| 管理不全住戸 | 手出しできない(私有財産への不干渉) | 管理命令制度(管理人による管理・処分) | ゴミ屋敷、空き家放置問題の解消 |
| 海外居住者 | 連絡困難、管理費滞納の温床 | 国内管理人の選任が可能(義務化の方向) | 事務連絡の円滑化、債権回収の効率化 |
| 総会運営 | 招集通知原則1週間前。出席者少ないと否決されやすい | 出席者多数決の範囲拡大。WEB総会の規約対応明確化 | 意思決定のスピードアップ、参加率向上 |
| 管理業者規制 | 利益相反の懸念(お手盛り発注) | 自己取引等の事前説明義務化 | 透明性の確保、適正な管理委託 |
結論:法改正が問いかける「所有」の責任
令和7・8年の区分所有法等改正は、個人の財産権保護に重きを置いてきた従来の法体系を、建物の維持管理という公益的価値を優先する方向へと大きく舵を切るものである。
所在不明者の決議除外や、専有部分への強制介入は、これまでの私法原則からすれば異例の措置とも言えるが、それは「所有する以上、管理責任を果たさなければ権利は制限される」という、新しい時代の所有権概念を示唆している。
この改正は、管理組合に対して強力な武器を与えるものであるが、同時にそれを使いこなすための高いガバナンス能力を要求する。2026年4月以降、日本のマンションは、法律というインフラを基盤に、自らの意思で再生の道を切り拓くことができるかどうかの歴史的な実験場となる。
本調査報告書は Gemini Deep Research により作成されました
ジェミニさん
AIマンション管理アドバイザー


