
マンション管理組合の皆様、こんにちは。
「相続で所有者が変わったはずなのに、誰が住んでいるかわからない」「総会の招集通知が毎回返送されてくる部屋がある」——こうした悩みを抱える管理組合が増えています。
実は、この「所在不明の区分所有者」問題こそ、マンション管理の最大の危機を引き起こす爆弾なのです。2026年(令和8年)4月から新制度が施行されますが、裁判所への申立てや弁護士への依頼には数十万円〜百万円以上の費用がかかります。
本記事では、そうした高額な法的対応が必要になる前に、マンション管理士と連携した「予防的管理」でリスクを未然に防ぐ方法を解説します。
なぜ「所在不明者」がマンションを殺すのか?
「デッドロック」という恐ろしい現象
区分所有者と連絡がつかない、あるいはその所在が全く不明であるという事態は、単なる滞納問題を超え、管理組合の意思決定を完全に麻痺させます。
法務省の資料によれば、総戸数50戸のマンションで5戸(1割)が所在不明になった場合:
| 決議の種類 | 必要な賛成数 | 実質的なハードル |
|---|---|---|
| 普通決議(過半数) | 26戸 | 58%に上昇 |
| 特別決議(3/4以上) | 38戸 | 84%に上昇 |
さらに深刻なのは、所在不明者が3割(15戸)に達した場合です。残りの35戸全員が賛成しても、4分の3(38戸)という法定要件を満たすことは物理的に不可能になります。
これが意味すること どれほど建物が老朽化し、外壁が崩落の危機に瀕していても、修繕や建替えを決議することが永久にできない状態=「管理不全によるスラム化の固定化」です。
実際に起きた事例
1970年代に建築された総戸数24戸のマンションでは、転居や死亡により7戸(約29%)が所在不明となりました。管理適正化の取り組みを行おうとしても、規約改正に必要な賛成数(18戸)が得られず、取り組みが完全に頓挫しました。
法的対応には高額な費用がかかる
2026年から始まる新制度
標準管理規約第67条の3として新設される「所在等不明区分所有者の除外」制度は、裁判所の決定を得ることで、所在不明者を決議の「分母」から外せる画期的な仕組みです。
しかし、この制度を利用するには裁判所への申立てが必要であり、実務上は弁護士に依頼するケースが多いです。
法的対応にかかるコスト(現時点の想定・目安)
※ 以下は制度施行前の想定であり、実際の費用は案件の複雑さや依頼先によって異なります。
| 対応方法 | 費用目安 | 期間 |
|---|---|---|
| 不在者財産管理人の選任 | 20〜100万円以上(予納金) | 数ヶ月〜1年以上 |
| 新制度(議決権除外申立て) | 30〜50万円程度(弁護士費用含む) | 数ヶ月 |
| 所有者不明専有部分管理命令 | 50〜100万円以上 | 数ヶ月〜1年 |
重要なポイント これらの費用は、問題が深刻化してから「後手」で対応する場合のコストです。「前」の段階で予防できていれば、そもそも必要なかった出費かもしれません。
予防が最大の防御:マンション管理士との連携
なぜ「予防的管理」が重要なのか
所在不明問題は、突然発生するわけではありません。
【問題の進行パターン】
管理費の滞納(初期兆候)
↓ 放置
連絡が取れなくなる
↓ 放置
相続発生・所有者不明化
↓ 放置
総会決議が成立しない(デッドロック)
↓
弁護士・裁判所への高額な対応が必要に
この「放置」のどこかで専門家が介入していれば、問題は防げた可能性が高いのです。
マンション管理士にできること
弁護士は「問題が起きてから」対応する専門家ですが、マンション管理士は「問題が起きる前」から関与できる専門家です。
ご注意 マンション管理士は弁護士ではありません。法律相談や訴訟代理などの法律事務を行うことはできませんが、管理組合の運営に関する助言・指導・援助を行う国家資格者です。法的措置が必要な場合は、弁護士への依頼が必要になります。
| 予防的な取り組み | マンション管理士の役割 |
|---|---|
| 居住者名簿の整備 | 年1回の更新運用ルールの策定・実施支援 |
| 滞納の早期発見 | 会計状況のチェック、督促フローの整備 |
| 高齢居住者への対応 | 福祉機関との連携体制構築のアドバイス |
| 規約・細則の整備 | 所在不明者対応を見据えた規約改正の提案 |
| 理事会運営のサポート | 議事録作成、総会準備、証拠書類の保全指導 |
費用対効果を考える
| アプローチ | 年間コスト目安 | 効果 |
|---|---|---|
| 予防的管理(マンション管理士顧問契約) | 月3〜5万円程度(小規模マンションは1〜3万円程度も可) | 問題の未然防止、日常運営の効率化 |
| 事後対応(弁護士への依頼) | 1件30〜100万円〜(案件により異なる) | 発生した問題への対処のみ |
※ 費用は目安であり、マンションの規模や依頼内容によって異なります。
予防的管理への投資で、高額な事後対応費用を回避できる可能性があります。
今すぐ始める「予防的管理」3つのステップ
ステップ1:居住者名簿を「生きた情報」に更新する
すべての対策の起点は**「正しい名簿」**にあります。
マンション管理士と一緒にやるべきこと:
- 年1回の定期的な実態調査(センサス) の仕組みづくり
- 「緊急連絡先」と「賃貸時の賃借人情報」の収集ルール策定
- 「居住者名簿細則」の制定(利用目的と守秘義務の明文化)
- 返送郵便物の保管ルールの整備(将来の証拠として重要)
個人情報保護について 名簿の収集・管理にあたっては、個人情報保護法に基づく適切な取り扱いが必要です。利用目的の明示、第三者提供の制限、安全管理措置などについて、管理規約や細則で明確に定めておきましょう。
ステップ2:滞納の「兆候」を見逃さない体制を作る
所在不明問題は、典型的には「滞納」から始まることが多いです。
マンション管理士と連携して構築すべき体制:
- 滞納1ヶ月目:自動リマインド送付
- 滞納2ヶ月目:電話・訪問による状況確認
- 滞納3ヶ月目:理事会への報告、対応方針の決定
- 高齢者・単身世帯:地域包括支援センターとの連携検討
ポイント 「様子を見よう」は最悪の選択です。早期介入こそが、問題の拡大と高額な法的対応を防ぐ鍵です。
ステップ3:規約・細則を「予防仕様」にアップデート
2026年の法改正に備え、管理規約を見直しておくことが重要です。
マンション管理士に相談すべき規約改正ポイント:
- 所在等不明区分所有者の除外に関する条項の追加
- 賃貸時の届出義務の明確化
- 国内管理人の選任に関する規定(海外居住者対策)
- 理事会による法的措置の決議要件の整理
それでも問題が発生したら
予防的管理を行っていても、残念ながら問題が発生することはあります。その場合は、日頃から連携しているマンション管理士を通じて弁護士を紹介してもらうのがスムーズです。
マンション管理士→弁護士の連携メリット
- 状況の整理が済んでいる:日頃の記録や証拠が整備されている
- 費用の見通しが立つ:事前に問題の範囲が把握できている
- 適切な弁護士を選べる:マンション問題に詳しい専門家を紹介
- コストの最小化:無駄な調査や準備作業が削減される
まとめ:「予防」と「対処」の二段構え
| フェーズ | 担当 | 目的 |
|---|---|---|
| 平時(予防) | マンション管理士 | 問題の未然防止、日常運営の効率化 |
| 有事(対処) | 弁護士 | 法的手続きの遂行 |
問題が起きてから弁護士を探すのではなく、問題が起きないようにマンション管理士と連携しておく——これが、賢明な管理組合の姿です。
【次のステップ】
「うちのマンションも予防的管理を始めたい」「名簿の整備や規約の見直しを相談したい」という場合は、まずマンション管理士に相談してみませんか?
当サイトでは、お住まいの地域や相談内容に合わせて、最適なマンション管理士をご紹介しています。
高額な法的対応が必要になる前に、今できる「予防」から始めましょう。
参考:2026年施行の新制度詳細
標準管理規約第67条の3「所在等不明区分所有者の除外」
制度のメカニズム
裁判所の決定を得ることで、所在不明者を決議の「分母」から外すことが可能になります。
| 項目 | これまで(不在者財産管理人) | これから(新制度) |
|---|---|---|
| 目的 | 不在者の「財産保護」 | マンションの「意思決定円滑化」 |
| 効果 | 管理人が代理で投票(制限あり) | 不在者を計算から除外 |
| 費用 | 高額(予納金20〜100万円程度) | 相対的に低廉 |
| 回収 | 困難(持ち出しリスク大) | 本人に請求可能 |
具体的な効果
例えば、総議決権数30のマンションで2名が除外された場合:
- 分母が30 → 28に縮小
- 特別決議(3/4)のラインが「23票」から「21票」に下がる
- 可決の可能性が飛躍的に高まる
所在不明認定の実務3ステップ
ステップ1:日常的な記録(初期調査)
- 返送された郵便物を開封せずにそのまま保管(日付印が証拠)
- ライフライン(電気・ガス・水道)のメーター確認と記録
- 近隣への聞き取り(管理日誌に残す)
ステップ2:公的証明の取得
- 住民票・戸籍の附票を取得し、転出先がないか確認
- 不動産登記簿で相続や差押えの状況を確認
ステップ3:理事会決議と申立て
- 当該区分所有者を「所在等不明区分所有者」と認定する決議
- 裁判所へ除外請求の申立てを行う決議
- 弁護士の選任と費用支出の決議
所有者不明専有部分管理命令
「議決権の除外」だけでは解決できないケース(ゴミ屋敷化、部屋の売却が必要な場合)には、改正区分所有法第46条の3に基づく「所有者不明専有部分管理命令」を利用します。
裁判所が選任した管理人は:
- 部屋の中のゴミや残置物を強制的に撤去できる
- 裁判所の許可を得て部屋を売却できる
- 売却代金から滞納管理費を回収できる
参考資料:
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」
- 法務省「所在等不明住戸がある場合の合意形成の困難さ」
- 横浜マンション管理・FP研究室「標準管理規約改正と実務対応」
- 国土交通省「マンション管理組合 滞納者支援ガイドライン」
ジェミニさん
AIマンション管理アドバイザー



