【値上げ・一時金・借入れ】マンション修繕の3つの選択肢をどう組み合わせるか?
「計画通り積み立てたのに足りない」──そんな悩みを抱える管理組合が急増中。修繕積立金の値上げ、一時金徴収、そして借入れ。それぞれの特徴と、築年数別の使い分け方を徹底解説。住宅金融支援機構のリフォーム融資実績は10年で約4倍に。もはや借入れは「最後の手段」ではなく「選択肢のひとつ」です。

マンション管理組合の皆様、こんにちは。
大規模修繕や設備更新のたびに、管理組合が必ず直面する問いがあります。
「修繕積立金の値上げで頑張るのか」「一時金を徴収するのか」「それとも借入れを使うのか」
かつては「できるだけ貯めて、借りない」が常識でした。
しかし今、修繕積立金だけでは追いつかず、共用部分リフォーム融資(借入れ)を活用するマンションが急増しています。

まずは「自分ごとチェック」
次のような課題はありませんか?
- 長期修繕計画どおりに積み立ててきたのに、見積書を取ったら想定の1.3〜1.5倍、場合によっては2倍近い工事費だった
- 区分所有者の高齢化が進み、「一時金徴収は現実的に難しい」という声が強くなっている
- 管理会社から「融資も選択肢です」と提案されたが、理事会や総会では「借金」という言葉に強い抵抗感がある
ひとつでも当てはまる場合、この記事はまさに「いま検討すべき選択肢」の整理に役立つはずです。
1. いま何が起きているのか?──「想定どおりに貯めても足りない」時代
1-1. 工事費が長期修繕計画を追い越している
- 人件費や材料費の高騰
- 建設業界の2024年問題(人手不足・時間外規制強化)
- 円安・エネルギー高
こうした要因が重なり、10年前に作った長期修繕計画の単価では、とても工事が発注できないケースが増えています。
「計画通り積み立ててきたのに、見積もりを取ったら1.3〜1.5倍だった」 という声は、全国の管理組合から聞かれるようになりました。物件や仕様によっては2倍近い見積もりが出るケースもあります。
1-2. 修繕積立金を"今から"上げても間に合わない
もうひとつの構造的な問題があります。
- 新築時の修繕積立金が低く設定されている
- 段階増額がうまく合意できていない
このため、「必要な時期に必要な額が貯まっていない」マンションが多数派になっています。
さらに、
- 高齢化で一時金徴収が難しい
- 収入差が大きく、一時金の可否で住民間に分断が生まれやすい
という事情も重なり、「値上げ」や「一時金」だけで解決するには限界が見えてきています。
その結果、「借入れを組み込まないと、そもそも必要な修繕が打てない」というマンションが増え、共用部分リフォーム融資の利用が全国的に伸びているのです。
1-3. データで見る:実績の伸びと"いま"の金利水準
実績:10年でおよそ3〜4倍に拡大
住宅金融支援機構の資料によると、管理組合向けのマンション共用部分リフォーム融資(管理組合申込み)の受理金額は以下のとおりです。
| 年度 | 受理金額 |
|---|---|
| 2013年度 | 68億円 |
| 2022年度 | 143億円 |
| 2023年度 | 196億円 |
| 2024年度 | 257億円 |
この10年あまりで約3〜4倍の水準まで伸びており、統計開始以降でも過去最高クラスの実績となっています。直近でも2年連続で前年度比30%超の伸びが続いています。
金利:2025年12月時点の目安
2025年12月(令和7年12月)時点の、マンション共用部分リフォーム融資(管理組合申込み)の金利は以下のとおりです。
【返済期間 1年以上10年以内】
- 基準金利:年1.39%(2025年12月1日時点、毎月見直し)
【金利優遇の仕組み】
以下の条件を満たすと、それぞれ0.2%ずつ金利が引き下げられます(最大0.6%引下げ、下限年0.1%)。
| 条件 | 金利優遇 |
|---|---|
| マンションすまい・る債を一定額以上保有 | -0.2% |
| 管理計画認定マンション | -0.2% |
| 耐震性向上・省エネ化・水害対策等の性能向上工事を含む | -0.2% |
例えば、3つの条件をすべて満たす場合、基準金利1.39%から0.6%引き下げられ、年0.79%程度での借入れが可能になります。
【返済期間 11年以上20年以内】
- 10年以内より高い金利が設定されます(具体的な金利は住宅金融支援機構へ個別にご確認ください)
💡 ポイント いずれも全期間固定金利であり、「申込時の金利」が完済まで変わらない仕組みです。また、マンションすまい・る債を保有していると、保証料が約2割引きになるメリットもあります。
※金利は毎月見直されます。実際に検討する際は、必ず住宅金融支援機構の公式サイトで最新の金利を確認してください。
2. 3つの選択肢の"性格"を整理する
「値上げ」「一時金」「借入れ」という3つの資金調達手段の性格をざっくり整理します。
2-1. 修繕積立金の値上げ(貯蓄型)
イメージ:毎月コツコツ貯めて自前で工事
| 良い点 | 難しい点 |
|---|---|
| 利息負担がなく、トータルの支払い総額は一番抑えやすい | 必要額に間に合うように大きく値上げしようとすると、反発が出やすい |
| 借金がないため、シンプルでわかりやすい | 「今の所有者」だけが負担を背負い、将来の購入者は整備された状態だけを享受する、という世代間不公平が起きやすい |
2-2. 一時金徴収(スポット型)
イメージ:必要なときだけ"ドン"と集める
| 良い点 | 難しい点 |
|---|---|
| 借金を増やさず、一時的に資金不足を解消できる | 高齢者や単身者など、まとまった現金を用意しにくい世帯には極めて厳しい |
| 「払える人」と「払えない人」の線引きが、コミュニティの分断につながるリスク | |
| 滞納が多発すると、結局計画が破綻する |
2-3. 借入れ(共用部分リフォーム融資等)
イメージ:将来の利用者も含めて、長く薄く負担する
| 良い点 | 難しい点 |
|---|---|
| 一時金を避けつつ、必要なタイミングで工事を打てる | 元本+利息を返すため、帳簿上の総支払額は増える |
| 「今の所有者」と「将来の所有者」が、設備を使う期間に応じて負担を分担できる(世代間の公平性) | 融資を受ける条件(滞納率など)を満たしていなければ、土俵に上がることができない |
| 長期の固定金利を選べば、インフレ・金利上昇リスクを一定程度コントロールできる | 返済期間中は、他の修繕に使えるキャッシュフローが制約を受ける |
⚠️ 重要なのは 「どれが正しいか」ではなく、「どの組み合わせなら自分たちのマンションにとって現実的か」という視点です。
多くの現場では、値上げ+借入れのハイブリッドが実務的な落としどころになりつつあります。
3. 借入れを検討する前に確認したい5つのチェックポイント
「借入れの制度の細部」よりも、議論に乗せる前に見ておきたいツボを整理します。
3-1. 修繕積立金の滞納率
代表的なリフォーム融資では、修繕積立金の滞納割合が原則10%以内といった条件が設けられています。
日頃から滞納管理が甘いと、「融資を検討する以前に審査で落ちる」という事態もあり得ます。
借入れを選択肢に入れたいなら、「滞納管理」そのものが重要な経営課題になります。
3-2. 長期修繕計画と現実のギャップ
- 長期修繕計画の単価・工事時期は、今見ても現実的か
- この先10〜15年で、「大きなお金がかかる工事」がどれくらい並んでいるか
このギャップを認識せずに議論を始めると、「とりあえず借りましょう」「とりあえず値上げしましょう」と、場当たり的な議論に陥りがちです。
3-3. マンションの"年齢構成"と所得構造
- 高齢世帯が多いのか
- 共働き子育て世代が多いのか
- 投資用・賃貸がどの程度を占めるのか
によって、「一時金の許容度」や「値上げの耐性」は大きく変わります。数字だけのシミュレーションでは見えない部分です。
3-4. 将来の大規模工事の"塊"
エレベーター、給排水管、サッシ、防水・外壁など、高額工事が同時期に固まっているときは、
- 1回目:借入れ+値上げ
- 2回目:値上げ分で賄う
といった複数回の工事を見据えた設計が必要です。
3-5. 中古市場での"見られ方"と情報開示方針
- 重要事項調査報告書等に、借入残高・返済計画をどう記載するか
- 借入れの目的(劣化対策なのか、バリューアップ投資なのか)をどう説明するか
ここをきちんと整理しておけば、「借入れ=管理不全マンション」ではなく、「必要な投資をきちんと実行しているマンション」として評価してもらえる可能性が高まります。
4. 築年数別に考える「借入れとの付き合い方」
同じ借入れでも、築年数によって役割が変わるイメージを持つと整理しやすくなります。
4-1. 築〜20年:まずは"体質改善"が優先
この時期は、
- まだ設備更新が本格化していない
- 積立金を見直す余地が比較的大きい
ため、借入れよりも修繕積立金の水準見直しが先です。
「今借りてしまうと、将来もっと大きな工事のときに身動きが取れなくなる」というリスクも考える必要があります。
4-2. 築20〜35年:借入れも含めた"3パターン比較"のフェーズ
エレベーターや給排水管、サッシなどの更新が本格化するこのゾーンでは、
- 値上げだけで乗り切る案
- 一時金+値上げ案
- 借入れ+値上げ案(あるいは借入れのみで平準化)
という3パターン程度のシミュレーションを作り、
- 各戸の毎月負担
- 一時金の有無
- 将来の借入残高
を「見える化」して比べることが重要です。
💡 比較期間の目安 築20〜35年ゾーンでは、少なくとも次の2回分の大規模修繕(20〜25年程度先まで)を視野に入れて3パターンを比較するのが現実的です。「次の1回だけ見て決める」のではなく、その次の工事まで含めた資金計画を描くことで、場当たり的な判断を避けられます。
4-3. 築35年以降:安全性・居住性の確保が最優先
このフェーズでは、
- 構造・設備の安全性
- バリアフリー・省エネなど、今の基準とのギャップ解消
など、「資産価値」を超えて安全・安心の確保が前面に出てきます。
「できるだけ借りない」ではなく、「どこまでを最低限のラインとして守るか」という発想にならざるを得ないケースも多く、借入れの活用を検討しない選択肢はほとんどありません。
5. 理事会が取るべき"次の一歩"
「じゃあ何から始めればいいのか」を整理します。
Step 1. 現状の見える化
- 最新の長期修繕計画の内容
- 修繕積立金の残高・毎月の積立額
- 滞納額・滞納率
- この先10〜15年の大きな工事項目と概算費用
これを1〜2枚の資料に整理するだけでも、理事会での議論が進みやすくなります。
Step 2. 3つのシナリオを比較する
少なくとも、次の3パターンは数字で比較してみることをおすすめします。
- 修繕積立金だけで対応する場合(大幅値上げ案)
- 一時金を組み合わせる場合
- 借入れを組み込んだ場合(+必要に応じて値上げ)
「どれが得か/損か」だけでなく、「どれなら合意形成できる現実的な選択肢か」という観点で見比べることが重要です。
Step 3. 専門家をうまく使う
ここまでの整理を、理事だけで全部やろうとすると相当な負担になります。
- 工事内容・仕様が妥当か
- 融資条件(滞納率・返済期間・金利優遇など)の確認
- シミュレーションの前提条件の設定
- 総会用資料や説明会スライドの作成
といった部分は、マンション管理士などの専門家にサポートを依頼することで、理事会は「判断」に集中できるようになります。
まとめ:借入れは"最後の手段"ではなく、"選択肢のひとつ"として設計する時代
- 修繕積立金の値上げ
- 一時金の徴収
- 借入れ(共用部分リフォーム融資等)
どれも一長一短があり、「これだけが正解」というものはありません。
これからのマンション管理では、
- 3つの手段の特徴を理解したうえで
- 自分たちのマンションの実情(年齢構成・滞納率・将来の工事予定)を踏まえ
- 複数シナリオを数字で比較しながら、最も現実的な組み合わせを選ぶ
という、"経営に近い発想"が求められています。
【次のステップ】
「うちのマンションも、将来の大規模修繕が心配だ」
「値上げだけで乗り切るのは難しいかもしれない」
と感じている管理組合・区分所有者の方は、
早い段階でマンション管理士などの専門家に相談し、
- 現状の整理
- 資金調達のシミュレーション
- 総会での説明の仕方
などについてアドバイスを受けてみることをおすすめします。
その一歩が、「選ばれるマンション」であり続けるための第一歩になります。
管理規約の見直し
この判断を進めるとき、規約が旧法のままになっていませんか
修繕・お金・運営の判断は、最終的に総会決議と管理規約の条文で決まります。改正区分所有法(2026年4月1日施行)で決議要件や手続きが変わったため、規約側の確認も合わせて進めるのが安全です。
管理規約スタジオは、現行規約を取り込むと標準管理規約・改正法との差分を条文単位で洗い出し、新旧対照表と改正案を出力する実務者向けツールです(運営会社のサービス)。
管理規約スタジオを見るコネル
管理組合の相談コンシェルジュ
管理組合のみなさまと信頼できる専門家をつなぐ、マンション管理士コネクトの案内役です。 制度や実務をかみくだいて整理し、判断はみなさまと専門家に委ねます。 口ぐせは「いっしょに、よい答えを見つけよう」。



