積立金が足りないとき、管理会社はどんな施策を提案しているのか
管理会社から届いた資料が値上げの話ばかりで、ほかに道はないのかと迷う。そんな理事会のために、管理会社が実際にどんな施策を提案しているかを業界団体の調査で確かめ、資料を受け取ったときに管理会社へ何を聞き、総会の前に何を確かめればよいかを整理しました。

管理組合の相談コンシェルジュ、フクロウのコネルです。長期修繕計画を見ていて、途中で資金が足りなくなりそうだと気づく。管理会社に相談すると、後日、案の並んだ資料が理事会に届く。読んでみると値上げの話が中心で、ほかの道はないのだろうかと迷う。そんな場面のお話です。
この記事で持ち帰ってほしいことは三つです。管理会社が積立金不足に対して実際に提案している施策は値上げだけではなく、およそ八つあること。値上げ案しか届いていないなら、ほかの案を検討したかを管理会社に聞いてよいこと。そして、値上げが止まった経験として管理会社が最も多く挙げたのは、総会の場ではなく、その前の説明会やアンケートの段階だったこと。この三つを、管理会社の業界団体が会員社に行った調査の数字で確かめていきます。
採用する案を決めるのは総会です。理事会は、それぞれの案の効果と条件と負担を比べた資料と議案案を整える立場になります。この記事は、その資料づくりの材料です。
値上げのほかに、どんな道があるのでしょうか
業界団体が会員の管理会社に、修繕積立金不足への対応として直近1年間に管理物件へ提案した施策を尋ねた設問があります。ひとつの会社が複数を選べる形式で、選ばれた会社が多かった上位三つはこうでした。
全項目は次の表のとおりです。項目名は調査の表記のままです。
| 直近1年間に管理物件へ提案した施策 | その項目を選んだ会社の数 |
|---|---|
| 修繕積立金の値上げ | 272 |
| 長期修繕計画の見直し(修繕周期を長期化等) | 237 |
| 修繕工事の見送り、仕様ダウン等 | 190 |
| 共用部分リフォームローンの活用 | 135 |
| 管理費支出削減(電子ブレーカ、LED等)分を修繕積立金口に振り替え | 123 |
| 駐車場の外部貸し等(収益事業) | 108 |
| 管理費支出削減(管理仕様ダウン)分を修繕積立金口に振り替え | 65 |
| 管理費支出削減(管理委託費の値下げ)分を修繕積立金口に振り替え | 30 |
| その他 | 11 |
| 特になし | 10 |
「特になし」を選んだ会社は10社でした。値上げだけでも272社が選んでいますから、回答した290社の大半が、少なくとも一つの具体的な施策を選んだことは確かです。積立金不足への対応は、直近1年間に多くの管理会社で実際の提案対象になっていた、ということです。
項目が並ぶだけでは性格の違いが見えにくいので、具体的な施策として示された八項目を、管理組合のお金への効き方で分けておきます。理事会で案を比べるときの物差しになります。
| 効き方 | この調査の項目 |
|---|---|
| 工事項目・時期・費用と資金計画の前提を更新する | 長期修繕計画の見直し |
| 管理組合に入るお金を増やす | 修繕積立金の値上げ、駐車場の外部貸し等 |
| 管理費側の支出を減らして配分を見直す | 電子ブレーカ・LED等、管理委託費の値下げ、管理仕様ダウン(いずれも修繕積立金の会計への振替) |
| 支出の時期や内容を変える | 修繕工事の見送り、仕様ダウン等 |
| 現在の資金を借入れで補い、将来返済する | 共用部分リフォームローンの活用 |
値上げ案しか届いていないとき、ほかの案を聞いてよいのでしょうか
聞いてよい、というのがこの記事の答えです。根拠は、複数回答の重なりです。
値上げを選んだ会社が272社、長期修繕計画の見直しを選んだ会社が237社。二つを合わせると延べ509社分になります。一方、この二つの項目に登場する会社の総数は、多くても全調査の回答社数である290社です。ですから、少なくとも219社は両方を選んだことになります。設問ごとの回答社数が290社より少なければ、この下限はさらに大きくなります。ここは公表値をもとにした記事側の計算です。
返ってきた資料をどう読むか。規約や総会の進め方、区分所有者への説明の組み立てについては、マンション管理士に相談する方法があります。専門家を探すから探せます。建物の状態や修繕周期の技術的な根拠は、建物調査や修繕設計に詳しい専門家の領分、という分け方になります。
長期修繕計画を見直せば、不足は解消するのでしょうか
二番目に多く選ばれていた長期修繕計画の見直しは、収入を増やす、支出を減らす、資金を借りるといった施策とは性格が異なります。建物の状態、修繕履歴、工事の内容、周期、工法、費用などの前提を更新して、必要額と資金収支を組み直す作業です。
調査の項目名には「修繕周期を長期化等」と括弧書きがありますが、これは一例で、見直した結果として必要額が下がるとは限りません。工事費の上昇や項目の追加で、不足が前より大きくなることもあります。ですから、資料に見直しが挙がっていたら、見直し前と比べて必要額と不足額がどう変わったのかを、管理会社に示してもらうことが判断材料になります。
工事の時期を後ろに動かす案が含まれる場合は、延期している間の劣化の進み方、その間に必要になる部分補修、将来の工事費、ほかの工事との重なりが、見直し後の計画に反映されているかも確かめる点です。
見直し案を待つあいだに、いまの計画で不足がどのくらいの大きさなのかを理事会でつかんでおくと、届いた資料を読む物差しになります。手元の長期修繕計画の数字を入れるだけの長期修繕計画の簡易シミュレーションを用意しています。
管理費を削って積立金に回す案は、そのまま進めてよいのでしょうか
表の中には、管理費側の支出を減らした分を修繕積立金の会計へ振り替える、という項目が三つありました。ここには確かめたい点があります。
管理費の支出が減っても、その額が自動的に修繕積立金になるわけではありません。また、調査でいう振替が、今後の管理費と修繕積立金の徴収額を組み替えることなのか、すでに管理費会計に生じた余剰を修繕積立金会計へ移すことなのかは、資料から分かりません。
資料に載っていない案は、ないのでしょうか
調査の十項目は調査側が用意したもので、管理組合が検討し得る対策を網羅した一覧ではありません。
国土交通省のマンションの修繕積立金に関するガイドラインは、積立方式について、修繕時に一時金を徴収する、または金融機関から借り入れることを前提としたものもある、と書いています。この調査では、借入れにあたる共用部分リフォームローンは独立した選択肢になっていますが、一時金は独立した項目として設けられていません。
届いた資料に並ぶ案が、そのマンションで検討し得る選択肢のすべてとは限りません。集め方の組み合わせは値上げ・一時金・借入れの3択でも整理しています。
値上げは、どこで止まることが多いのでしょうか
同じ調査には、修繕積立金の増額に至らなかったケースを尋ねた設問もあります。こちらも複数回答です。
| 増額に至らなかったケース | その項目を選んだ会社の数 |
|---|---|
| 事前の説明会やアンケートで反対意見が多く理事会として議案上程を見送ったため | 140 |
| 総会で否決されたため | 71 |
| 総会で議案審議を実施したが、反対者等の発言で議案審議を保留したため | 71 |
| 委任状・議決権行使書の提出が集まらなかったため | 21 |
| その他 | 39 |
この表にも、気をつけたい点があります。設問には、増額を提案した件数も、至らなかった件数も示されていません。複数回答でもあります。ですから、増額のうちどれだけがどこで止まったか、という内訳としては読めません。読めるのは、それぞれの経験をした会社の広がりです。
事前の説明会やアンケートで反対意見が多く、理事会として議案上程を見送ったケースを挙げた会社が140社。総会で否決されたケースを挙げた会社が71社。反対が生じた理由までは、この調査からは分かりません。
それでも、総会前の段階を検討対象に入れる理由にはなります。総会の成立要件や委任状・議決権行使書の提出状況に関心が向きがちですが、説明会やアンケートで何を示すか、議案案をどう組み立てるかも、同じ検討事項です。値上げ以外の案を検討した経緯と、採用しなかった理由を説明会の資料に入れておくことは、その準備の一つになります。
規約、経理、長期修繕計画の状態を、書類を見ながら順に点検したいときは、管理状況のセルフチェックが使えます。管理計画認定の項目に沿って確認できるので、積立金の話を総会に出す前の棚卸しにもなります。
よくある質問
Q. 管理会社から届いた資料が値上げの話ばかりです。ほかの案も出してもらえるのでしょうか。
調査では、値上げと長期修繕計画の見直しの双方を提案した会社が少なくとも219社あり、多くの管理会社が複数の案を持っています。ほかの施策を検討したか、このマンションでは採用できないと判断したのかを確認することはできます。ただし、選択肢として挙がっていることと、採用できることは別です。駐車場の外部貸しには規約や契約条件、税務の確認があり、借入れには金利や返済の条件があります。採用する案は、管理規約に沿って総会が決めます。
Q. 長期修繕計画を見直すと言われました。それで不足は解消するのでしょうか。
見直しは、建物の状態や修繕履歴、工事の内容、周期、工法、費用などの前提を更新して、必要額と資金収支を組み直す作業です。必要額が下がることも上がることもあります。見直し前と後で必要額と不足額がどう変わったかを示してもらい、それを判断材料にしてください。
まとめ
- 管理会社が積立金不足に提案している施策は値上げだけではなく、計画の見直し、工事の見送りや仕様の変更、借入れ、管理費の削減分の振替、駐車場の外部貸しなど、およそ八つあります
- 値上げと計画の見直しの双方を提案した管理会社は少なくとも219社です。値上げ案しか届いていないなら、ほかの案を検討したか、採用しない理由は何かを管理会社に聞けます
- 長期修繕計画の見直しは、必要額が上がることもあります。見直し前後の必要額と不足額の変化が判断材料です
- 管理費の削減分を積立金に回す案は、今後の徴収額の組み替えか、すでに出た余剰の移動かで手続きが変わります。後者は管理規約の定めを確かめます
- 一時金は調査の項目にありません。資料に並ぶ案が、検討し得る選択肢のすべてとは限りません
- 値上げが止まった経験として管理会社が最も多く挙げたのは、総会の場ではなく、その前の説明会やアンケートの段階でした。検討した案と採用しなかった理由を、その段階で示せるようにしておきます
出典
- 一般社団法人マンション管理業協会「マンション管理会社状況調査2026」結果概要(令和8年8月27日)(PDF)/【調査票1】長期修繕計画における修繕積立金不足への対応について(設問(1)(2)(3))。調査期間2026年4月1日〜7月31日、全会員社329社に対し回答290社(88.1%)。回答欄の数値は、回答会社数または複数回答数です。同じ調査には、計画期間中に資金不足が生じる管理組合へ今後どんな施策を検討するかを尋ねた設問もあり、上位三つは提案実績と同じでした(対象も時点も違うため、増減としては読めません)。項目間の重なりの下限(219社)は、調査全体の回答社数を上限として記事側で計算したものです。
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月策定/令和6年6月改定)(PDF)/「4 修繕積立金の積立方法について」(1)修繕積立金の積立方法
- 国土交通省「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント」(令和6年6月改定)(PDF)/第2編第2章第2節4(調査・診断の実施)、第2編第3章第1節(長期修繕計画の作成の方法)
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」(令和7年10月17日改正)(PDF)/第28条第4項(修繕積立金の区分経理)、第61条第1項(管理費の余剰の充当)、第48条(議決事項)
制度・条件の確認日:2026-09-10
管理規約の見直し
この記事の内容を、自分のマンションの規約に落とし込むには
記事で扱ったルールは、管理規約に書かれていて初めて総会で使えます。改正区分所有法(2026年4月1日施行)に合わせて、現行規約のどこを直すかを洗い出すところから始めます。
管理規約スタジオは、現行規約を取り込むと標準管理規約・改正法との差分を条文単位で洗い出し、新旧対照表と改正案を出力する実務者向けツールです(運営会社のサービス)。
管理規約スタジオを見るコネル
管理組合の相談コンシェルジュ
管理組合のみなさまと信頼できる専門家をつなぐ、マンション管理士コネクトの案内役です。 制度や実務をかみくだいて整理し、判断はみなさまと専門家に委ねます。 口ぐせは「いっしょに、よい答えを見つけよう」。



