共用部分からの漏水で、管理組合は賠償の相手になるのか──最高裁判決と理事会が確かめること
外壁や床下の亀裂から住戸に漏水したとき、賠償を誰に求めるのか。最高裁は、管理組合は原則として共用部分の「占有者」に当たると判断しました。判決が決めたこと・決めていないことと、理事会がいま確かめる保険・記録・不具合の一覧を案内します。

マンションの外壁や床下の亀裂からひとつの住戸に何度も水が入り、その住戸を共有していた人が、管理組合などに損害賠償を求めました。この裁判で最高裁判所は、管理組合は原則として、民法の工作物責任でいう「占有者」に当たると判断しました。
共用部分(外壁や廊下など、各住戸の専有部分ではない建物の部分や設備)の不具合から専有部分に被害が出る場面は、どのマンションにも起こりえます。この事件でも、管理組合への請求について、第一審と控訴審で結論が分かれていました。
管理組合の相談コンシェルジュ、コネルです。この記事では、判決の中身を理事会の目線で読み解きます。
この記事で持ち帰ってほしいことは三つです。
- 共用部分の欠陥で他人に損害が出たとき、管理組合は特段の事情がない限り、民法の工作物責任を問われる「占有者」に当たること
- 最高裁が決めたのは管理組合が「占有者」に当たることまでで、必要な注意を尽くしていたかや、最終的な支払義務と損害の額は判断していないこと
- 保険の補償の範囲と、共用部分の不具合への対応の経過を、理事会でいまのうちに確かめること
判決の中身、「占有者」の意味、理事会がいま確かめることの順に見ていきます。
この判決は、何を決めたのですか
共用部分の欠陥で他人に損害が出たとき、管理組合(区分所有者の団体)は、特段の事情がない限り民法717条1項本文の「占有者」に当たる、と決めました。被害を受けた人は、管理組合に対して、この規定に基づく損害賠償を求められることになります。ただし、管理組合だけが唯一の請求先になることや、各区分所有者が共用部分の所有者として責任を負う可能性まで否定した判決ではありません。
舞台は東京都練馬区の27戸のマンションです。ある住戸で4回の漏水があり、原因は外壁のコンクリートの躯体(建物を支える骨組みの部分)と床下のスラブ(床を支えるコンクリートの板)の亀裂などでした。
最高裁は、これらの亀裂などが建物の設置や保存の欠陥に当たり、その箇所が共用部分であることを、原審(高裁)が確定した事実として前提にしています。そのうえで争点になったのが、管理組合が「占有者」に当たるかどうかです。
| 裁判所 | 管理組合への請求の結論 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 第一審(東京地方裁判所) | 管理組合への請求の一部を認め、1,000万円余りの支払いを命じました | 請求を一部認めた |
| 控訴審(東京高等裁判所 令和5年9月27日判決) | 共用部分の占有者は区分所有者の全員で、管理組合は占有者に当たらないとして、管理組合への請求を退けました | 請求を退けた |
| 上告審(最高裁判所第一小法廷 令和8年1月22日判決) | 管理組合は特段の事情がない限り占有者に当たり、この事件に特段の事情はうかがわれないとして、管理組合への損害賠償請求に関する部分を破棄し、高裁に差し戻しました | 組合は占有者に当たる |
「ひとことで言うと」はコネルの補足です。第一審が管理組合の責任を認めた理由の組み立ては、最高裁と同じではないと紹介されています。
民法の「占有者」とは、どういう立場ですか
ここでいう占有者は、そこに住んでいる人という意味ではありません。建物などの工作物を支配管理して、損害の発生を防ぐべき立場にある者のことです。
民法717条1項は、建物などの設置や保存に欠陥があって他人に損害が出たとき、まず占有者が賠償の責任を負うと定めています。そのうえで、占有者が損害を防ぐのに必要な注意をしていたときは所有者が賠償する、というただし書を置いています。
最高裁は、区分所有法の仕組みから、共用部分を支配管理しているのは区分所有者の団体だと読みました。判決が挙げた点は次のとおりです(条文番号は判決当時のものです)。
- 区分所有者は全員で建物の管理を行うための団体(管理組合)を構成すること(区分所有法3条前段)
- 共用部分の管理に関する事項は、保存行為などの例外を除き、原則として集会の決議によって決めること(区分所有法18条1項)
- 団体は持分に応じて各区分所有者から管理の費用を集めるのが通例であること(区分所有法19条参照)
- 共用部分の欠陥によって損害が生じた場合、団体の財産から賠償することが区分所有者の通常の意思に沿い、損害を被った者の保護にも役立つこと
ここで、二つの例外を分けて考える必要があります。「特段の事情」は、管理組合がそもそも占有者に当たらない例外です。どのような事情がこれに当たるかは、判決からは読み取れません。これに対し、民法717条1項ただし書の「必要な注意」は、管理組合が占有者に当たることを前提に、賠償の責任を免れるかどうかという別の問題です。最高裁は、この事件では「特段の事情はうかがわれない」としましたが、「必要な注意」を尽くしていたかどうかは判断していません。
最高裁が破棄の理由とした「この管理組合は占有者に当たる」という判断は、民事訴訟法の定めにより、差し戻された後の審理を拘束します。一方、管理組合が必要な注意を尽くしていたか、最終的な支払義務や損害の額は、差し戻された後にさらに審理されます。「共用部分から漏水すれば、どんな場合も管理組合が全額を払う」と決めた判決ではありません。
では、理事会はいま何をすればよいのか
保険、対応の経過、不具合の一覧の三つを、手元の資料で確かめることから始めます。どれも新しい決議がなくても、理事会で現状を確認できるものです。
まず理事会は、管理会社や保険代理店に、保険証券と特約の一覧、約款、免責金額(保険から支払われない自己負担の額)、事故を連絡する期限が分かる資料をそろえてもらいます。共用部分の欠陥で他人に損害を与えたときの賠償に備える特約(施設賠償責任の特約など)が付いているか、漏水による内装などの損害がどこまで補償されるかを確かめます。保険の種類の全体像は、マンション保険の基礎にまとめています。
次に、漏水や雨漏りの相談を受けてから修繕を終えるまでの経過を確かめます。相談を受けた日、原因の調査、応急の処置、原因の確認、恒久的な修繕を、それぞれいつ、どのように行ったかです。議事録や管理会社の報告は、後から経過を確かめるための大切な資料になります。ただし、記録が残っているだけで責任を免れるわけではなく、問われるのは実際にいつ何を把握し、どう対応したかです。
あわせて、共用部分の不具合で先送りになっているものがないかを見ます。点検や調査の報告書で指摘された事項、長期修繕計画で時期が来ている工事、住民から寄せられた雨漏りや結露の相談を一つの一覧にすると、どれがほかの住戸への被害につながりうるかを理事会で話し合えます。
配管や設備のどこまでが専有部分でどこからが共用部分かは、まず管理規約と別表で確かめます。規約だけでは分からないときは、配管の通り方や過去の工事の記録を、建築や設備の専門家に見てもらいます。事故が起きたときの連絡や初期対応の流れは、管理委託契約で確かめます。
補償の範囲が足りているか、専有部分と共用部分の境目が分かりにくくなっていないかは、組合の側に立つ専門家に見てもらうと判断しやすくなります。専門家を探すから、エリアや得意分野で相談先を見比べられます。
理事会は資料を集めて現状を確かめ、専門家や管理会社は判断の材料を出します。特約の追加など保険料が変わる見直しや工事は、理事会が案と資料を用意し、理事会の判断で進められるか総会の決議が要るかを、自分たちの管理規約と承認済みの予算で確かめます。
よくある質問
上の階の住戸の配管から漏水した場合も、管理組合の責任になりますか
今回の判決が扱ったのは、外壁の躯体や床下のスラブという共用部分の亀裂などが原因の漏水です。原因が専有部分の設備にある場合は同じ整理にはならないので、まず原因の箇所を調べてもらい、その箇所が管理規約で専有部分か共用部分かを確かめます。
管理会社が賠償するのではないのですか
管理会社が管理組合に代わって当然に賠償するわけではありません。判決は、管理会社の責任を判断していません。ただし、管理会社が管理委託契約上の義務に反していなかったか、事故を知った後の対応に問題がなかったかは、管理組合の責任とは別に検討されます。管理委託契約と、実際の連絡・調査・提案の経過を確かめます。
判決で、事件はもう終わったのですか
最高裁が破棄の理由とした「この管理組合は占有者に当たる」という判断は、差し戻された後の審理を拘束します。一方、管理組合が必要な注意を尽くしていたか、最終的な支払義務や損害の額について、最高裁は判断せず、東京高等裁判所に差し戻しました。その後の審理の状況は、最高裁判決だけからは分かりません。
まとめ
- 共用部分の欠陥で他人に損害が出たとき、管理組合は特段の事情がない限り、民法の工作物責任を問われる「占有者」に当たること
- 最高裁が決めたのは管理組合が「占有者」に当たることまでで、必要な注意を尽くしていたかや、最終的な支払義務と損害の額は判断していないこと
- 保険の補償の範囲と、共用部分の不具合への対応の経過を、理事会でいまのうちに確かめること
理事会では、保険の補償の範囲、これまでの対応の経過、先送りになっている不具合を確認し、理事会で進められることと総会に諮ることを分けて整理します。確認して、しっかり取り組むことが大切です。それが、被害を受けた住戸にも、ほかの区分所有者にも経過を説明できる対応につながります。
出典
- 最高裁判所第一小法廷 令和8年1月22日判決(令和6年(受)第385号 損害賠償等請求事件)(PDF)/主文、原審の確定した事実関係等の概要、民法717条1項本文の趣旨と区分所有法3条前段・18条1項・19条に基づく判断、25条・26条(管理者)の定めがあっても左右されないとした部分、本件に特段の事情はうかがわれないとした部分
- 東京高等裁判所 令和5年9月27日判決の解説(小松亀一法律事務所)/請求額、第一審の認容額、控訴審が占有者を区分所有者の全員とした判断
- 民法(e-Gov法令検索)/第717条1項本文・ただし書
- 建物の区分所有等に関する法律(e-Gov法令検索)/第3条・第18条・第19条・第25条・第26条(管理者)。リンク先は2026年4月1日施行の改正後の条文で、判決は改正前の条文によっています
- 民事訴訟法(e-Gov法令検索)/第325条3項(上告裁判所が破棄の理由とした判断が差戻し後の裁判所を拘束すること)
- マンション保険の基礎/施設賠償系の補償の位置づけ
判決日・判決が参照した区分所有法の基準日:2026-01-22 理事会の実務・現行制度の確認日:2026-09-25
管理規約の見直し
この記事の内容を、自分のマンションの規約に落とし込むには
記事で扱ったルールは、管理規約に書かれていて初めて総会で使えます。改正区分所有法(2026年4月1日施行)に合わせて、現行規約のどこを直すかを洗い出すところから始めます。
管理規約スタジオは、現行規約を取り込むと標準管理規約・改正法との差分を条文単位で洗い出し、新旧対照表と改正案を出力する実務者向けツールです(運営会社のサービス)。
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管理組合の相談コンシェルジュ
管理組合を中心に、情報・ツール・専門家をつなぐ、管理コネクトの案内役です。 制度や実務をかみくだいて整理し、判断はみなさまと専門家に委ねます。 口ぐせは「いっしょに、よい答えを見つけよう」。


