修繕談合で高く払った分は取り戻せるのか──公共工事の判例と今回の処分から、理事会が知っておくこと
大規模修繕の談合で処分が出て、国は検討会を設けました。では、管理組合が払いすぎた分は取り戻せるのか。公共工事の談合で裁判所が損害をどう認めてきたか、請求の法的な構成、違約金特約の効き方、いま理事会がしておくことを整理しました。

「発注者であるマンション管理組合の信頼を裏切り、その利益を害する談合は決してあってはならないことです」。関東のマンションの大規模修繕工事をめぐる談合で公正取引委員会が処分を出した翌日、国土交通大臣は会見でこう述べ、有識者による検討会の設置を発表しました。
処分の記事を読んだ理事から出てくるのは、もっと手前の問いです。うちの工事も高く払っていたのではないか。払いすぎた分は戻ってくるのか。管理組合の相談コンシェルジュ、コネルです。
この記事で持ち帰ってほしいことは三つです。
- 公共工事の談合をめぐる住民訴訟では、裁判所が契約金額などの一定割合を損害と認め、業者に自治体への支払いを命じた判決があること
- 今回の違反事業者に談合による損害の賠償を求める代表的な構成は、民法の不法行為と独占禁止法の損害賠償で、使える時期と立証の重さが違い、特約やコンサルとの契約に基づく請求が問題になることもあること
- 談合違約金特約は、条項の要件を満たした場合に損害額を一から立証する負担を軽くでき、これから発注する組合の有力な備えになること
この記事は、今回なにが起きていたのか、判例で損害はどう認められてきたか、コンサルに払ったお金はどうなるのか、国の検討会で何が変わりうるのか、いま何をすればよいのか、の順で進みます。
今回、具体的に何が起きていたのか
公正取引委員会の命令書によると、工事ごとに、設計コンサル業者と協力関係にある施工業者が受注予定者として決まり、ほかの施工業者は連絡された見積価格を出すか、見積り合わせに参加しないことで協力していました。コンサル業者は、業務の中で得た設計予算などの情報を受注予定者側に伝えていました。そして、コンサル業者の協力を得て工事を受注した施工業者は、コンサル業者との協議に基づき、原則として管理組合との工事請負契約の契約価格の5パーセントを目安とする金額を、コンサル業者に支払っていました。処分の中身と、自分たちの工事が対象かどうかの確かめ方は、マンション修繕の談合に処分が出たで扱っています。
契約価格が1億円で、原則どおり5パーセントが支払われていたと仮定すれば、500万円です。ただし、命令書は、その500万円が工事の価格にそのまま上乗せされたことや、同じ額が管理組合の損害になったことまでは認定していません。認定されているのは、受注予定者や見積価格などが調整され、受注後には施工業者からコンサル業者への支払いがあったことです。
こうした形は、今回初めて指摘されたものではありません。国土交通省は平成29年の通知で、管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントの存在が指摘されているとして、次の三つの事例を紹介しています。
| 事例 | 何が起きていたか | 管理組合にとっての問題(コネルの補足) |
|---|---|---|
| 技術者の実態 | コンサルの技術者とされた人が、実は施工会社の社員だった | コンサルが中立の立場にいなかった |
| 見積りの条件 | 特定の1社だけに少ない数量を伝え、その会社の見積額が低くなるようにしていた | 見積りを比べる前提が崩れていた |
| 格安のコンサル料 | 格安で受託し、自社にバックマージンを払う施工会社が受注できるよう工作した | 受注業者からコンサルへのお金の流れがあった |
通知はこれらを「指摘されている事例」として紹介したもので、国土交通省が違法と認定したものではありません。
判例では、談合の損害はどう認められてきたのか
公共工事の談合では、裁判所が損害を認めて、業者に自治体への支払いを命じた判決があります。次の三件は、いずれも自治体の住民が、自治体が業者に賠償を求めないことを問題にして起こした住民訴訟です。マンションの管理組合が自ら請求した事件ではないことに注意が必要です。
難しいのは、談合がなければいくらで契約できたかを、誰も実際には見られないことです。そこで使われてきたのが民事訴訟法248条です。これは、談合と工事の関係や損害が生じたことが認められた上で、その額を立証するのが極めて難しい場合に、裁判所が証拠と審理の全体を踏まえて相当な額を認定できる規定です。違反行為や損害の発生そのものを推定する規定ではありません。
| 事件(裁判所) | 損害として認めた額 | 判決のポイント |
|---|---|---|
| 町田市の公共下水道工事(東京高裁) | 各請負契約金額の5パーセント | 立入検査の後に平均落札率が約4.69ポイント下がったこと、課徴金の対象工事と対象外工事の平均落札率の差が約6.16ポイントだったことなどを総合して認定 |
| 富山県のかんがい排水工事(名古屋高裁金沢支部) | 二つの工区について落札価格の1割 | 原審の認定を維持。ほかの工区は、住民監査請求の期間を過ぎていたとして訴えが退けられた |
| 倉敷市の下水道の埋設工事(岡山地裁) | 契約金額の15パーセント | 原告が主張した落札価格の比較による2割は採用せず、談合の態様、入札の経過、契約金額などの事情を総合して認定 |
施工業者や設計コンサル業者など、違反行為をした事業者に談合による損害の賠償を求める代表的な法的構成として、民法709条の不法行為と独占禁止法25条の損害賠償があります。これに加えて、請負契約に談合違約金特約がある場合の請求や、コンサルとの委託契約に基づく請求が問題になることもあります。
| 民法の不法行為(709条) | 独占禁止法の損害賠償(25条) | |
|---|---|---|
| 裁判で請求できる時期 | 公正取引委員会の命令の確定を待つ必要はありません。ただし、必要な証拠と要件をそろえ、時効の前に手続をとる必要があります | 排除措置命令が確定した後でなければ、裁判で主張できません。排除措置命令がされなかった場合は、法律で定める課徴金納付命令の確定が基準になります |
| 故意・過失 | 請求する側が主張し、立証します | 事業者は、故意や過失がなかったことを理由に責任を免れません。違反行為と工事との関係、損害、因果関係は別に問題になります |
| 第一審の裁判所 | 通常の民事訴訟の管轄のルールによります | 東京地方裁判所です |
| 時効 | 原則として、損害と加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年です。数え始める時点は個別に確かめます | 上記の排除措置命令または納付命令が確定した日から3年です |
| 損害の額 | 請求する側が立証します。民事訴訟法248条が使われることがあります | 立証は必要です。裁判所は公正取引委員会に損害額についての意見を求めることができます |
命令に不服のある事業者は取消しを求めて争うことができるので、独占禁止法25条に基づく請求を裁判で主張できる時期は、基準となる命令の確定時期に応じて事業者ごとに変わりえます。どちらの構成でも、談合がなければいくらだったかという損害の額をめぐる争いは残ります。
この点で効いてくるのが、工事の請負契約に入れておく談合違約金特約です。国土交通省が示した条文例では、この契約に関して受注者の課徴金納付命令が確定したときなど、条項で定めた要件を満たした場合に、請負代金額の一定割合を違約金として払う形になっています。要件を満たせば、契約で定めた割合について、個別の損害額を一から立証する負担を軽くできます。実際の損害が違約金を超えるときは、その分を別に請求できる形も示されています。ただし、支払義務の有無が争われることや、相手が払わないおそれは残り、国土交通省も、条項を設けるときは弁護士などに相談して個別に対応するよう勧めています。条文例の詳しい読み方は、大規模修繕の業者選定を切り分ける方法で扱っています。
コンサルに払ったお金は、どうなるのか
設計コンサル業者は、施工業者と共同して独占禁止法に違反したと認定された事業者でもあり、前の章の構成で請求の相手方になりえます。それとは別に、管理組合との委託契約に基づく責任も問題になります。契約の性質や条項に応じて、善良な管理者としての注意義務、秘密保持の義務、報告の義務、利益相反を避けたり開示したりする義務などに反していなかったかが問題になります。
施工業者からコンサル業者に支払われた金額が、そのまま管理組合の損害額や返還を求められる額になるわけではありません。管理組合がコンサルに払った委託料について何を求められるかも、委託した業務の内容、実際に提供された業務、利益相反の事実、損害との因果関係によって変わります。今回のように、設計コンサル業者が施工業者との受注調整に関与し、施工業者から金銭を受け取った事案について、管理組合からの請求を判断した公刊判例は、この記事の確認範囲では見当たりませんでした。委託契約書と事実関係をそろえ、債務不履行、不法行為、独占禁止法25条などの構成を弁護士と検討する部分です。
国の検討会で、何が変わりうるのか
国土交通省が設けた「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会」は、管理組合が留意すべき事項や、適切な事業者を確保するための方策を議論します。第1回は10月19日で、取りまとめの時期は示されていません。大臣は、できる限り速やかに結論を得るよう議論を進める考えを示しています。
何がまとまるかを推測することはできませんが、顔ぶれは公表されています。座長は神戸芸術工科大学学長で、委員には、弁護士、大学の法学研究科と工学研究科の教授、民間の研究所の所長、建築研究所の理事、マンション管理センターの理事長、東京都と横浜市のマンション担当の課長が入っています。
公表された検討事項は、適正な発注の進め方や適切な事業者の確保策です。個々の管理組合の損害賠償の請求を代わりに進める制度は示されていないので、過去の工事への対応は、それぞれの組合が別に検討する必要があります。
では、いま何をすればよいのか
自分たちの工事が処分の対象だった組合と、これから発注する組合では、することが違います。
処分の対象だった組合は、まず記録を守ります。命令では、各コンサル業者は対象の工事を発注した管理組合に、各施工業者は自社が受注した対象の工事の管理組合に、命令に基づいて採った措置を通知することとされています。この通知は、返金の額や損害の額を知らせるものではありません。通知書は封筒や送信メールとともに保存し、受け取った日と送り主を記録します。受け取った日が時効の数え始めになると一律には言えませんが、後で事実を確かめるのに必要な記録になります。あわせて、コンサルとの委託契約書、施工業者との請負契約書、見積書、再見積書、辞退の連絡、見積りの比較表、選定の議事録、関係するメールや電子ファイルの原本や元のデータはそのまま保全し、確認用の写しを一か所に集めます。請負契約に談合違約金の条項があるかも確かめます。請求には時効があり、法的な構成によって期限の数え方が違うので、すべての資料がそろうのを待たず、早い段階で弁護士に相談し、資料の保全と収集を並行して進めます。
これから発注する組合は、二つの備えができます。一つは、施工会社を募る条件を決める段階で、談合違約金特約を入れるかどうかを決め、入れるなら募集要項や契約書案に示しておくことです。もう一つは、コンサルと契約する前に、施工会社などとの資本関係や取引関係、紹介料や手数料などの利害関係があるかを、書面で開示してもらうことです。書面の回答だけで中立性が確かめられるわけではないので、見積書を誰が受け取り、いつ誰が開封し、どの基準で比べたかの記録も残します。
決める主体も押さえておきます。標準管理規約では、計画修繕などの実施と、それに充てる修繕積立金の取崩しは総会の議決事項で、理事会は規約や総会の決議で与えられた範囲で業務の執行を決めます。過去の工事については、資料の保全と事実の確認は理事会が進められますが、弁護士への正式な依頼、相手方への請求、訴訟、和解、請求の放棄は、それぞれ別の意思決定です。自分たちの規約、承認済みの事業計画と予算、理事会と理事長に任された権限を確かめ、必要なものは総会の決議を得ます。弁護士は法的な見通しと手続を助言し、依頼を受ければ代理しますが、請求や和解を決めるのは管理組合です。これからの工事についても、理事会は、総会で承認された工事の方針や予算を確かめた上で、談合違約金特約を盛り込んだ募集要項や契約書案を作り、重要な契約条件として総会で確かめるべきものは工事の議案とあわせて承認を得ます。
記録の整理や請求の見通しを、管理会社やコンサルとは別の立場から見てほしいときは、利害関係を確かめたうえで外部の専門家に相談する方法があります。専門家を探すでは、地域と相談したい分野から相談先を探せます。
よくある質問
課徴金が16億円も出たなら、その中から管理組合に返ってくるのではありませんか
課徴金そのものが管理組合に配られることはありません。課徴金は国に納めるものです。管理組合が損害の回復を求める場合は、課徴金とは別に、契約に基づく請求、事業者との交渉、損害賠償の請求などを検討する必要があります。
公共工事の判例のように、5パーセントくらいは戻ると考えてよいですか
そうは言えません。紹介した三件の割合は5パーセント、1割、15パーセントと開きがあり、どれもそれぞれの事件の入札の経過などの証拠をもとに決められています。マンションの工事で同じような材料があるとは限らず、管理組合が賠償を受けた公刊判例も、この記事の確認範囲では見当たりませんでした。
違約金特約は、すでに結んだ契約に後から入れられますか
相手の合意がなければ入りません。すでに結んだ契約に特約がない場合は、後から同じ条件を当然に当てはめることはできないので、請求を考えるなら、民法709条、独占禁止法25条、契約上の責任など、事実関係に応じた構成を弁護士と検討することになります。
まとめ
- 公共工事の談合をめぐる住民訴訟では、裁判所が契約金額などの一定割合を損害と認め、業者に自治体への支払いを命じた判決があること
- 今回の違反事業者に談合による損害の賠償を求める代表的な構成は、民法の不法行為と独占禁止法の損害賠償で、使える時期と立証の重さが違い、特約やコンサルとの契約に基づく請求が問題になることもあること
- 談合違約金特約は、条項の要件を満たした場合に損害額を一から立証する負担を軽くでき、これから発注する組合の有力な備えになること
過去の工事は記録を守って早めに弁護士と見通しを確かめ、これからの工事は契約の段階で備える。この二つを理事会で確認して、しっかり取り組むことが、組合の修繕積立金を守ることにつながります。
出典
- 公正取引委員会 報道発表(令和8年9月28日)・排除措置命令書(別添1、リノシスコーポレーション関係)(PDF)・排除措置命令書(別添2、翔設計関係)(PDF)/受注調整の仕組み、契約価格の5パーセントを目安とする支払い、管理組合への通知
- 国土交通省「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」(平成29年1月27日)(PDF)/指摘されている三つの事例
- 国土交通省「井林大臣会見要旨」(令和8年9月29日)・検討会の設置・開催について・発表資料(委員名簿)(PDF)
- 東京高等裁判所 判決(町田市の公共下水道工事の談合をめぐる住民訴訟)(PDF)/各請負契約金額の5パーセント、落札率の比較
- 名古屋高等裁判所金沢支部 判決(富山県のかんがい排水工事の談合をめぐる住民訴訟)(PDF)/二つの工区について落札価格の1割、ほかの工区は監査請求期間の問題
- 岡山地方裁判所 判決(倉敷市の下水道の埋設工事の談合をめぐる住民訴訟)(PDF)/契約金額の15パーセント、民事訴訟法248条
- 独占禁止法 第25条・第26条・第84条・第85条の2、民法第709条・第724条、民事訴訟法第248条
- 国土交通省 事務連絡「マンション修繕工事に係る請負契約における談合違約金特約条項について」(令和7年6月26日)(PDF)/条文例、訴訟・不払いのリスクと専門家への相談
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」(令和7年10月改正)(PDF)/第48条(総会の議決事項)、第54条(理事会の議決事項)
制度・条件の確認日:2026-10-01
管理規約の見直し
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記事で扱ったルールは、管理規約に書かれていて初めて総会で使えます。改正区分所有法(2026年4月1日施行)に合わせて、現行規約のどこを直すかを洗い出すところから始めます。
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管理規約スタジオを見るコネル
管理組合の相談コンシェルジュ
管理組合を中心に、情報・ツール・専門家をつなぐ、管理コネクトの案内役です。 制度や実務をかみくだいて整理し、判断はみなさまと専門家に委ねます。 口ぐせは「いっしょに、よい答えを見つけよう」。


