管理組合の「保険が切れていた」を防ぐには──保険料の値上げと管理会社の交代で、理事会が確かめること
保険料の値上げで特約を外す、管理会社の交代で更新の手続きが宙に浮く。共用部分の保険が切れたり薄くなったりするのを防ぐために、理事会が保険の書類で確かめるところと、満期から逆算した進め方、総会と理事会の役割をまとめました。

日本経済新聞が「マンション保険に危機、管理組合向け大幅値上げ 免責額調整など対応策」という記事で、管理組合向けの保険の保険料が大きく上がり、必要性の高い特約まで外す組合が増えていると報じました。記事は、首都圏のマンションの管理資料を確かめた不動産コンサルティング会社が、保険に入っていないことに気づく場面から始まります。保険代理店を務めていた管理会社との契約が終わったことなどをきっかけに、無保険になる物件もあるといいます。
保険の更新の案内が届いて、見積りの金額に驚いた理事会があるかもしれません。管理会社を替える話が出ている理事会では、保険の手続きを誰が引き継ぐのかが話題に上っていないこともあります。管理組合の相談コンシェルジュのコネルが、理事会で確かめる順番を整理します。
この記事で持ち帰ってほしいことは三つです。
- 保険証券と契約の明細で契約者・満期日・取扱代理店を確かめ、満期から逆算して更新の段取りを決めること
- 管理会社を替えるときは、保険会社・代理店と管理会社がそれぞれ担っていた手続きを確かめ、引継ぎの一覧に入れること
- 特約や免責金額を変えるときは、変更前後の見積書と補償内容を並べ、承認済みの予算で処理できるかを確かめ、収支予算の変更が必要なら総会に諮ること
まず保険が「切れる」「薄くなる」とはどういうことかを表で並べ、次に自分たちの保険の現状を確かめる方法、最後にいまからの進め方を順に見ていきます。
保険が「切れる」「薄くなる」とは、どういうことですか
「切れる」は、満期を越えて更新されず、保険がない期間ができることです。「薄くなる」は、保険料を抑えるために特約を外したり、免責金額(保険から支払われない自己負担の額)を上げたりして、事故のときに保険から受け取れる範囲が狭くなることです。
次の表は、理事会で話し合いやすいようにコネルが並べたもので、一つの公式な分類ではありません。
| 呼び方 | 何が起きるか | ひとことで言うと(コネルの補足) | 出てくる資料 |
|---|---|---|---|
| 特約を外す | 基本の補償に上乗せしていた特約をやめて、保険料を抑える | その特約による補償がなくなる。同じ事故の損害がほかの補償の対象になるか、誰が負担するかは、契約の内容や事故の原因、責任関係で変わる | 保険証券、契約の明細、更新の見積書 |
| 免責金額を上げる | 一つの事故ごとの自己負担を増やして、保険料を抑える | 契約で決めた免責金額までは自己負担になり、その分だけ受け取れる保険金が減る | 契約の明細、更新の見積書、約款 |
| 満期を越えて更新されない | 満期日までに更新の手続きが終わらず、保険がない期間ができる | 保険がない期間に起きた事故は、通常、終わった契約の補償の対象にならない | 保険証券、満期の案内 |
「切れる」が起きやすいのは、管理会社や代理店が替わり、誰が満期の案内を受け、誰が更新の見積りを依頼するのかがあいまいになったときです。この点は次の章で確かめます。
背景の一つに、住宅総合保険の参考純率(保険料のうち、将来の保険金の支払いに充てる部分を計算するときの参考値)の引き上げがあります。損害保険料率算出機構は、自然災害による保険金の支払いが増えたことや、築年数の古い住宅の割合が増えたことなどを背景に参考純率を引き上げ、水災については地域のリスクに応じた区分を設けました。ただし、参考純率の改定率は、各保険会社の商品の改定率や個々の契約の保険料の上がり方とは異なります。自分たちの保険料がどう変わるかは、更新の見積書で確かめます。値上げのこれまでの経緯はマンション保険の改定の記事にまとめています。
そもそも、うちの組合の保険はどうなっていますか
手がかりは、いま有効な保険証券です。契約者、保険期間(いつからいつまでか)、取扱代理店、付いている特約、免責金額、保険料を確かめます。証券だけで分からない項目は、契約の明細、重要事項説明書、約款、更新の見積書もあわせて見ます。今年度に支払う保険料が、予算に入っている額と合っているかも確かめます。
標準管理規約では、共用部分などの損害保険は管理組合が契約します。区分所有法は、共用部分に損害保険をかけることを「共用部分の管理に関する事項」とみなしており、共用部分の管理は総会の決議で決めるのが原則で、規約で別の定めを置くこともできます。標準管理規約は、組合が保険を契約することを区分所有者が承認する定め(24条)を置き、保険金の請求と受け取りは理事長が区分所有者らを代理して行う(24条の2)としています。保険料は管理費から払い(27条五号)、保険に関する業務は組合の業務です(32条七号)。保険の種類の全体像は、管理組合の保険を「5つの箱」で整理した記事にまとめています。
組合が契約することと、保険証券を誰が保管するかは別の話です。国土交通省の標準管理委託契約書(令和5年9月11日改訂版)は、管理会社が保険証券を保管する場合について、掛け捨ての保険に限るとし、組合から求められれば遅滞なく出すものとしています。
管理会社が保険に関わる立場は、二つに分けて考えると整理しやすくなります。一つは、管理委託契約に基づく組合側の事務です。同じ標準管理委託契約書は、管理会社が組合に代わって行う契約事務の一つに、共用部分の損害保険契約に係る事務を挙げています。実際の業務の範囲は、自分たちが結んでいる管理委託契約書で確かめます。もう一つは、管理会社が保険代理店を兼ねている場合の、保険会社の側に立った保険の募集です。見積りを依頼する人、申込書を取りまとめる人、満期の案内を受けて理事会へ伝える人、事故の連絡をする人がそれぞれ誰で、管理委託契約と代理店の仕事のどちらの立場で行っているのかを、管理委託契約書と保険の書類で確かめます。管理会社と代理店が同じ会社でも、立場は分かれます。理事長や理事会が自分で担っている組合もあります。
次の表は、管理会社と代理店の関係ごとに、確かめておきたい問いを並べたものです。
| いまの形 | 確かめること |
|---|---|
| 管理会社が代理店を兼ねている | 管理委託契約が終わったあとも同じ代理店が担当するか。満期の案内、見積り、事故の連絡はどこが受けるか |
| 管理会社とは別の代理店 | 管理会社が替わっても同じ代理店を続けるか。事故のときに管理会社と代理店へそれぞれ何を連絡するか |
では、いま何をすればよいのか
満期日を先に押さえ、そこから逆算して理事会の日程と、総会が必要な場合の開催日を決めます。見積りの比較も、必要なら総会の承認も、満期の前に終えます。
まず、保険証券と契約の明細、約款、保険会社や代理店から届いた更新の案内と見積書を集めます。管理会社が預かっていれば、写しを出してもらいます。
次に、管理会社を替える予定がないかを確かめます。標準管理委託契約書では、管理会社は原則として契約の終了までに、組合または組合が指定する者へ管理事務を引き継ぎます。組合が事前に承諾した場合は、契約の終了後の日を引継ぎの期限にすることもできます。この引継ぎの一覧に、保険会社、取扱代理店、満期日、更新の見積りを誰が依頼するか、保険料の支払いを誰が確かめるか、事故の連絡先を書き入れ、保険会社または代理店にも確認しておくと、手続きが宙に浮きにくくなります。代理店を替えるかどうか、替えるときの手続きは、保険会社や代理店に確かめます。
特約や免責金額を変える案が出たときは、変更前後の見積書と補償内容を並べ、保険料の差額、免責金額、補償されなくなる損害の範囲を比べます。よくある事故を例に、どの補償の対象になりうるかを代理店に説明してもらう方法もあります(支払いの可否と金額は、事故のあとの調査で決まります)。代理店一社の見積りだけで決めにくいときは、ほかの保険会社の見積りを取って比べる方法もあります。
補償の選び方や、規約に沿った決め方で迷うときは、組合の側に立つ専門家に資料を見てもらうと判断しやすくなります。専門家を探すから、エリアや得意分野で相談先を見比べられます。
保険料が予算書の金額を超えるときは、すぐに総会が必要と決めつけず、予備費などを含めて承認済みの予算の範囲で処理できるかを、自分たちの規約と予算書で確かめます。収支予算の変更が必要なら、標準管理規約では臨時総会の承認を得ることになっています(58条2項)。
総会に諮る場合は、区分所有者に、保険料が上がった理由と、特約や免責金額を変えると補償や自己負担がどう変わるかを、見積書と補償内容の比較とあわせて伝えます。居住者にも、必要に応じて事故の連絡先などを知らせます。共用部分の不具合がほかの住戸への賠償につながりうる話は、共用部分からの漏水と最高裁の判断の記事にまとめています。
役割の分け方も確かめます。標準管理規約の理事会の議決事項(54条)には、保険の契約や更新を名指しした号はありません。一方で理事会は、規約や総会の決議で理事会の権限とされた業務執行を決めます(51条)。同じ補償のままの更新を理事会で決められるか、補償を減らす変更を総会に諮るかは、自分たちの規約、承認済みの予算、過去の総会の決議で確かめます。補償を大きく減らす場合は、総会の議決事項の「その他管理組合の業務に関する重要事項」(48条十八号)に当たるかも考えます。総会は、収支予算の変更や、規約で総会の決議が要る事項を決めます。理事会は、見積りを比べて案を作り、規約や総会の決議で与えられた範囲で業務を進めます。専門家は、事故の履歴や建物の状態、規約、見積りを整理して選択肢を助言します。保険会社や代理店は、補償の内容や見積り、申込みの手続きを説明し、取り扱います。どの案を選んで契約するかを、必要な決議を経て決めるのは管理組合です。
よくある質問
管理会社を替えると、いまの保険はなくなりますか
管理委託契約と保険の契約は通常は別の契約なので、管理委託契約が終わっただけで、保険の契約が当然に終わるとは限りません。ただし、契約の形や保険料の払い方によって扱いが違うことがあります。保険期間、契約の状態、いまの代理店を続けるか、満期の案内や事故の連絡を誰が受けるかを、保険会社といまの代理店に確かめます。
保険料を抑えるために、特約を外してもよいですか
どの特約が要るかは、建物の設備の状態や過去の事故の履歴によって変わり、一律には決まりません。たとえば給排水設備からの水濡れや、共用部分が原因でほかの人に与えた損害に備える特約を外すと、その特約による補償はなくなります。同じ事故の損害がほかの補償の対象になるかは、契約の内容で変わります。変更前後の見積書と補償内容を並べて理事会で比べ、規約に沿って必要なら総会に諮ります。
保険の更新は、理事会だけで決められますか
組合によります。同じ補償のまま予算の範囲で更新するのか、補償の中身や保険料が大きく変わるのかで必要な手続きが変わることがあるので、自分たちの規約と予算、過去の総会の決議で確かめます。
まとめ
- 保険証券と契約の明細で契約者・満期日・取扱代理店を確かめ、満期から逆算して更新の段取りを決めること
- 管理会社を替えるときは、保険会社・代理店と管理会社がそれぞれ担っていた手続きを確かめ、引継ぎの一覧に入れること
- 特約や免責金額を変えるときは、変更前後の見積書と補償内容を並べ、承認済みの予算で処理できるかを確かめ、収支予算の変更が必要なら総会に諮ること
事故が起きたあとで、その事故にさかのぼって補償を足すことは通常できません。満期と手続きの担い手を確認して、更新の段取りにしっかり取り組むことが、組合の備えを保つことにつながります。
出典
- 日本経済新聞「マンション保険に危機、管理組合向け大幅値上げ 免責額調整など対応策」(2026年10月5日)/リードの報道。本文の事実は以下の一次資料で確かめました
- 損害保険料率算出機構「火災保険参考純率 改定のご案内」(2023年6月28日)(PDF)/住宅総合保険の参考純率の全国平均の改定率、水災料率の細分化、改定の背景、実際の保険商品の改定率とは異なる旨の注意書き
- 建物の区分所有等に関する法律/第18条第1項・第2項・第6項
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」(令和7年10月17日改正)(PDF)/第24条、第24条の2、第27条第五号、第32条第七号、第48条第十八号、第51条、第54条、第58条
- 国土交通省「マンション標準管理委託契約書」(令和5年9月11日改訂版)(PDF)/第23条第4項(管理事務の引継ぎ)、別表第1 1(2)③(損害保険証券の保管)、別表第1 2(1)③(契約事務)、別表第1 2(3)③(契約終了時の図書等の引渡し)。国土交通省は令和7年12月12日にも改正版を公表しています。本文中の条番号と文言は令和5年9月11日改訂版で確認しています。各組合で管理会社に委託している業務の範囲は、実際に締結している管理委託契約書で確かめます
制度・条件の確認日:2026-10-05
管理規約の見直し
この記事の内容を、自分のマンションの規約に落とし込むには
記事で扱ったルールは、管理規約に書かれていて初めて総会で使えます。改正区分所有法(2026年4月1日施行)に合わせて、現行規約のどこを直すかを洗い出すところから始めます。
管理規約スタジオは、現行規約を取り込むと標準管理規約・改正法との差分を条文単位で洗い出し、新旧対照表と改正案を出力する実務者向けツールです(運営会社のサービス)。
管理規約スタジオを見るコネル
管理組合の相談コンシェルジュ
管理組合を中心に、情報・ツール・専門家をつなぐ、管理コネクトの案内役です。 制度や実務をかみくだいて整理し、判断はみなさまと専門家に委ねます。 口ぐせは「いっしょに、よい答えを見つけよう」。

