管理費の滞納が続いたら、理事会は何から始めるのか──督促・時効・法的措置の順番
管理会社の督促で払われない住戸が残ったとき、理事会は何をどの順で進めるのか。管理委託契約と規約で役割の境目を確かめ、時効の完成を防ぐ方法、支払督促や訴訟、先取特権や競売請求までを、国交省の資料と最高裁の判断をもとに整理します。

国土交通省の「マンション総合調査」では、3か月以上の管理費等の滞納が出ているマンションの割合が前回の調査より増え、築年数がたったマンションほど多い傾向が出ています。理事会の席で、管理会社から「督促を続けていますが、払われない住戸があります」と報告を受けたとき、何から手をつければよいかで話が止まってしまうことがあります。
管理組合の相談コンシェルジュをしているフクロウのコネルです。
この記事で持ち帰ってほしいことは三つです。
- 管理会社の督促には契約上の区切りがあり、その後の請求は管理組合の仕事になるので、管理委託契約と規約で境目を先に確かめること
- 督促状を送り続けるだけでは時効の完成を防ぎ続けられないので、月ごとの期限を一覧にし、承認の書面や支払督促など裁判所の手続きを考えること
- 標準管理規約の例では、支払督促や訴訟は理事会の決議で進められる一方、区分所有法59条で部屋の競売を求める訴えには総会の特別決議がいるなど、手続きごとに決める場が違うこと
回収の方法の種類、自分たちの規約と契約、いま何をするか、の順に見ていきます。
滞納の回収には、どんな方法がありますか
方法は大きく、話し合いと督促、裁判所を使って支払義務を確定させる手続き、財産や部屋からの回収、に分けられます。一般に法的な手続きに進むほど負担は増えますが、時効の期限、金額、争いの有無、本人の財産、競売がすでに始まっているかによって、先に取るべき手続きは変わります。
次の表は一つの公式な分類ではなく、国交省の資料や法律に出てくる方法を並べたものです。「ひとことで言うと」はコネルの補足です。「何に基づいて進めるか」は国交省の標準管理規約の場合なので、自分たちの規約で確かめます。
| 方法 | 中身 | ひとことで言うと | 主な実行者 | 何に基づいて進めるか |
|---|---|---|---|---|
| 督促 | 電話、書面、自宅訪問、内容証明郵便で支払いを求める | 最初の働きかけ | 契約の範囲は管理会社、その後は理事長 | 管理委託契約と組合の回収方針 |
| 支払督促 | 簡易裁判所の書記官に申し立て、書類の審査で支払いを命じてもらう | 書類中心の裁判所の手続き | 理事長(依頼した専門家) | 理事会 |
| 少額訴訟 | 60万円以下の支払いを求め、原則1回の審理で判決が出る訴訟 | 小さな額の早い裁判 | 理事長(依頼した専門家) | 理事会 |
| 通常の訴訟 | 訴えを起こし、審理を経て支払いの判決を求める | ふつうの裁判 | 理事長(依頼した専門家) | 理事会 |
| 先取特権に基づく競売 | 区分所有法7条の先取特権を使い、判決なしで競売を申し立てる。部屋に対して使えるのは、建物に備え付けた動産からでは全額を回収できない場合 | 抵当権などを払った残りから回収する | 理事長(依頼した専門家) | 理事会 |
| 判決などに基づく強制執行 | 判決などの債務名義をもとに、預金などを差し押さえる | ほかの財産から回収する | 理事長(依頼した専門家) | 理事会 |
| 区分所有法59条の競売請求 | 共同生活への著しい障害をほかの方法で取り除けないとき、部屋の競売を裁判で求める | 持ち主を入れ替えるための最後の手段 | 総会で選んだ人(依頼した弁護士) | 総会の特別決議 |
| 新しい持ち主への請求 | 区分所有法8条に基づき、売買や競売で部屋を取得した人にも滞納分を請求する | 新しい持ち主にも請求できる | 理事長、契約の範囲で管理会社 | 回収方針、訴訟に進むなら理事会 |
先取特権は、ほかの一般の債権より先に回収できる権利です。ただし、登記された抵当権(住宅ローンが返されないときに金融機関が売却代金から先に回収する権利)や税金より後になります。債務名義は、強制執行に使える判決などの書類です。
そもそも、自分たちの規約と管理委託契約はどうなっていますか
規約の「管理費等の徴収」の条と、管理委託契約の督促の定めを並べると、誰がいつまで何をするかが分かります。どちらも組合が保管しているはずの書類なので、まず保管場所を確かめ、手元になければ管理会社に写しを頼みます。
| 見る書類 | 確かめること |
|---|---|
| 管理規約 | 遅延損害金の率、弁護士費用や督促の費用を上乗せして請求できるか、理事長が理事会の決議で法的措置を進められるか |
| 管理委託契約 | 管理会社が督促する期間と方法、滞納状況の報告の仕方、期間が終わったあとの協力の範囲 |
管理会社から「これ以上の請求は管理組合の役割になります」と言われても、対応を怠っているとは限りません。国交省の標準管理委託契約書(令和7年12月改正)では、管理会社は契約の別表で定めた方法で督促し、それでも払われないときは、その後の請求は管理組合が行う形です。同じひな形のコメントは、弁護士法の定めをふまえ、債権の回収はあくまで管理組合が行うものだと説明しています。組合が協力を求めるときは、組合の名義で内容証明郵便を出す手伝いなど、協力の内容と費用を両者で協議して決めます。督促の期間や方法は組合ごとの契約で違うので、自分たちの契約書の別表で確かめます。
規約については、国交省の標準管理規約(令和7年10月改正)60条が一つの目安になります。期日までに払われないときは、遅延損害金に加えて、違約金としての弁護士費用等と督促・徴収の費用を上乗せして請求できる、という定めです。遅延損害金の率は空欄で、組合が規約で決めます。理事長は、理事会の決議により、管理組合を代表して訴訟その他の法的措置を進められます。
同じ規約のコメントは、滞納者への措置を「管理組合(理事長)の最も重要な職務の一つ」と位置づけています。遅延損害金や弁護士費用等は、請求しない合理的な事情がある場合を除いて請求すべきものとし、弁護士費用等には司法書士の費用も含まれるとしています。
では、いま何をすればよいのか
月ごとの一覧を作って期限の近い分を見つけ、督促と話し合い、書面での約束、財産の確認、裁判所の手続き、の順を基本に進めます。
最初に、月ごとの支払期日と金額、督促状を送った日と届いた日、一部の支払いや約束の対象になった月、裁判所の手続きの有無が分かる一覧を、管理会社と作ります。時効が近い月分があれば、ふつうの督促の順番を待たず、専門家に相談して裁判所の手続きを考えます。
そうでなければ、始めの数か月は電話や書面で督促し、本人と話します。標準管理規約のコメントの別添には、1か月目のお知らせから5か月目の内容証明郵便まで段階を踏む督促の例があり、うっかり忘れなど一時的な理由の滞納は3か月以内に解消するという実績も書かれています。話し合いの段階では本人の事情を聞いたうえで払える方法を探しますが、ほかの区分所有者との公平のために放置はしません。
分割払いを認めるなら、対象の月、未払額、支払義務を認めること、分割額と期限、また遅れたときの扱いを書いた合意書を作ります。分割の条件は、規約と組合の回収方針で決める権限を確かめたうえで理事会で決めます。元本や遅延損害金を減らすことは、理事会だけで決められるかを規約で確かめ、必要なら総会で決めます。理事長や管理会社の担当者だけで約束しないようにします。こうした合意書や一部の支払いは「承認」にあたり、時効が新しく進むことがあります。ただし、すでに時効期間を過ぎたかもしれない分は扱いが変わるので、合意書を作る前に専門家に確かめます。
払われない状態が続くときは、登記事項証明書で抵当権の有無や順位、登記された金額を確かめます。登記では今のローン残高までは分かりませんが、売却の見込額や手続きの費用とあわせて、組合に回るお金が残りそうかを考える材料になります。残りが見込めないと、先取特権による競売は「無剰余」(売っても先に払う分と費用で残りがない状態)として取り消されることがあり、選ぶ方法が変わります。また、部屋に対して先取特権を使えるのは、建物に備え付けた動産からでは全額を回収できない場合なので、抵当権と売却の見込みだけで決められる手続きではありません。
管理会社の督促期間が終わる前に、理事会で次の措置を決めます。標準管理規約では、60条の訴訟その他の法的措置は理事会の決議事項です(54条)。支払督促は、申立ての段階では相手を裁判所に呼び出さず、裁判所書記官が申立ての内容を審査する手続きです。手数料は請求額や申立ての方法で変わるので、裁判所の手数料表で確かめます。相手が異議を出せば通常の訴訟に移ります。異議がなくても、そのままでは差し押さえに進めず、決められた期間内に仮執行宣言(支払督促を強制執行に使えるようにする手続き)を申し立てる必要があり、しないと支払督促は効力を失います。少額訴訟は控訴できませんが、同じ簡易裁判所への異議はでき、分割払いを認める判決になることもあります。
どの措置を取るかは、弁護士から判断材料を聞いたうえで理事会が決めます。簡易裁判所の一定の額までの事件は、認定を受けた司法書士も代理できます。59条の競売請求のような手続きは、弁護士への相談が基本です。
法的措置に進むか迷っている段階で、方法の選び方や費用の見通しを整理したいときは、管理組合の実務にくわしい専門家に相談できます。
判決などを得たあとは、預金などの財産に強制執行ができます。一定の条件のもとで、裁判所から銀行などに預貯金の情報を出すよう命じてもらう手続きもあります(民事執行法)。
金融機関などほかの債権者が申し立てた競売が始まったら、裁判所が決める配当要求の終期までに配当要求をします。売却代金から全額を回収できなかった分は、新しい持ち主への請求を考えます。通常の売買や任意売却で持ち主が変わったときは、配当要求の手続きはなく、新しい持ち主への請求に移ります。区分所有法8条は新しい持ち主にも請求できるという定めで、前の持ち主の支払義務が消えるわけではありません。
先取特権やほかの財産への強制執行でも回収できなかった場合や、財産の調査から回収できないことが明らかな場合には、区分所有法59条の競売請求を検討することがあります。これは単なる回収の手続きではなく、共同生活への著しい障害を取り除くため、部屋の持ち主を入れ替える制度です。裁判では、共同の利益に反する行為があること、そのための障害が著しいこと、ほかの方法では取り除けないことを示す必要があり、滞納の期間や額、交渉の経過などから判断されます。国交省のコメントは、長期かつ多額の滞納についてこれを認めた裁判例を紹介しています。標準管理規約では、組合員総数の過半数で、かつ議決権総数の過半数を持つ組合員が出席し、出席組合員とその議決権の各4分の3以上が賛成する特別決議が必要です。総会では、訴えを起こすことと、訴えを起こす人を決めます。決議の前には、本人に弁明の機会を与えます。競売を認める判決が確定しても競売が自動的に始まるわけではなく、確定した日から6か月以内に、別に競売を申し立てる必要があります。
滞納への対応は、管理計画認定の基準にも入っています。国の基準では、直前の事業年度末に修繕積立金の3か月以上の滞納額が全体の1割以内であることが求められます。いまの組合の状態は管理状況のセルフチェックで確かめられます。部屋の持ち主と連絡がつかない場合は、所在不明の区分所有者への対応もあわせて読めます。
よくある質問
管理会社に最後まで回収を任せられないのですか
管理会社がどこまで受け持つかは管理委託契約で決まり、国交省のひな形では、決まった督促のあとの請求は管理組合が行います。滞納者が払わないとはっきりしている状態で管理会社が督促を続けると、弁護士法に触れるおそれがあるとひな形のコメントも注意しています。裁判所の手続きに進むときは、組合として弁護士などに依頼する形です。
5年より前の滞納分は、もう請求できないのですか
時効期間を過ぎたように見えても、催告や承認、裁判所の手続きで完成の時期が変わっている場合があります。また時効は、本人が時効を主張(援用)して初めて効果が出ます。古い分について一部の支払いや約束がある場合も、その時期と内容で扱いが変わるので、月ごとの期日と請求の経過を整理して専門家に確かめます。
滞納のある部屋が売られたら、滞納分はどうなるのですか
区分所有法8条により、新しい持ち主にも請求できます。売却の動きが分かったら、滞納の額と請求の経過を管理会社と整理しておくと、新しい持ち主への請求に移りやすくなります。
まとめ
- 管理会社の督促には契約上の区切りがあり、その後の請求は管理組合の仕事になるので、管理委託契約と規約で境目を先に確かめること
- 督促状を送り続けるだけでは時効の完成を防ぎ続けられないので、月ごとの期限を一覧にし、承認の書面や支払督促など裁判所の手続きを考えること
- 標準管理規約の例では、支払督促や訴訟は理事会の決議で進められる一方、区分所有法59条で部屋の競売を求める訴えには総会の特別決議がいるなど、手続きごとに決める場が違うこと
確認して、期限を見ながら順番を決めてしっかり取り組めば、回収できる見込みは高められます。本人の資力や担保の状況によっては全額を回収できない場合もあるので、早めに動くことが大切です。
出典
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果からみたマンションの居住と管理の現状」(PDF)/(7)「管理費又は修繕積立金の滞納(3ヶ月以上)の有無と滞納住戸割合」〔管31①〕
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)及び同コメント」(令和7年10月17日改正)(PDF)/第47条第3項第4号、第48条第11号、第54条第1項第6号、第60条、コメント第60条関係、別添3「滞納管理費等回収のための管理組合による措置に係るフローチャート」と解説
- 国土交通省「マンション標準管理委託契約書及び同コメント」(令和7年12月12日改正)(PDF)/第11条(管理費等滞納者に対する督促)とコメント第11条関係
- 建物の区分所有等に関する法律(e-Gov 法令検索)/第7条(先取特権)、第8条(特定承継人の責任)、第58条第2項・第3項、第59条第1項〜第3項(区分所有権の競売の請求)
- 民法(e-Gov 法令検索)/第97条、第147条、第150条、第152条、第166条第1項、第169条
- 民事訴訟法(e-Gov 法令検索)/第391条、第392条(仮執行の宣言)
- 民事執行法(e-Gov 法令検索)/第207条(銀行等からの情報の取得)
- 最高裁判所第二小法廷 平成16年4月23日判決(平成14年(受)第248号 管理費等請求事件)/民集58巻4号959頁
- 裁判所「支払督促」
- 裁判所「少額訴訟」
- 国土交通省「マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針」(令和7年11月21日最終改正)(PDF)/別紙二 管理計画の認定の基準(管理組合の経理)
制度・条件の確認日:2026-10-07
管理規約の見直し
この記事の内容を、自分のマンションの規約に落とし込むには
記事で扱ったルールは、管理規約に書かれていて初めて総会で使えます。改正区分所有法(2026年4月1日施行)に合わせて、現行規約のどこを直すかを洗い出すところから始めます。
管理規約スタジオは、現行規約を取り込むと標準管理規約・改正法との差分を条文単位で洗い出し、新旧対照表と改正案を出力する実務者向けツールです(運営会社のサービス)。
管理規約スタジオを見るコネル
管理組合の相談コンシェルジュ
管理組合を中心に、情報・ツール・専門家をつなぐ、管理コネクトの案内役です。 制度や実務をかみくだいて整理し、判断はみなさまと専門家に委ねます。 口ぐせは「いっしょに、よい答えを見つけよう」。


