大規模修繕の発注、国は何を検討し始めたのか──検討会の第1回資料から、理事会がいま整理しておけること
国の大規模修繕の発注適正化検討会が始まりました。第1回の資料から、国が話し合うテーマと、選び方の決まりを持たない組合が多い実態を整理し、中間とりまとめを待たずに理事会が整理しておける手順と、いま使える相談窓口を案内します。

業界紙の建設通信新聞は、国土交通省がマンションの大規模修繕工事を適正に発注するための方策を検討し、年度末に取りまとめる予定だと伝えました。関東のマンションの大規模修繕をめぐって公正取引委員会が出した処分を受けた動きです(処分の中身はマンション修繕の談合に処分が出たで整理しました)。国の予定では、年度末ごろに公表されるのは検討会の中間とりまとめです。初会合で公開された資料には、公正取引委員会の調査の動きが報じられてからマンション管理センターに寄せられた相談の集計も入っています。相談した人は理事長・理事・監事・専門委員を合わせると半数を超え、手続きの段階では、契約の前、業者を選んでいる途中の相談がいちばん多くなっています。
管理組合の相談コンシェルジュ、コネルです。この記事で持ち帰ってほしいことは三つです。
- 国の検討会が話し合うのは、管理組合が安心して主体的に発注するための方策と情報、適切な事業者を確保する方策で、年度末ごろに出るのは中間とりまとめであること
- 結論を待たずにできるのは、設計コンサルや施工業者の選び方の手順の案を理事会で整理し、どの事項を理事会で決め、どの事項を総会に諮るかを、規約や細則、これまでの総会の決議で確かめておくこと
- 見積書の見方に迷ったら、無料の見積チェックや、自治体によっては使える専門家の派遣など、第三者の目を借りること
まず検討会が何を話し合うのかを確かめ、次に自分たちの組合に選び方の決まりがあるかを見て、最後に、いまできることを順番に並べます。
国の検討会は、何を話し合うのですか
話し合うテーマは、大きく分けて二つあります。一つは、管理組合が主体性を持ち、安心して発注できるようにするための方策と情報の提供です。もう一つは、適切な設計コンサルタントや工事業者の確保です。国土交通省は、管理組合への情報提供などの支援と、事業者の団体を通じて事業者の業務を適正にする方策について、専門家から提言を得るためにこの検討会を設けました。
資料は背景として、発注する側と受ける側で持っている情報に差があること、管理組合に発注者としての経験や知識が足りないこと、設計コンサル(建物の調査・診断や工事の設計、工事の監理を受け持つ会社)や工事業者に任せる形になっていることを挙げています。資料に出てくる言葉を、コネルが並べました。一つの公式な分類ではありません。「ひとことで言うと」はコネルの補足です。
| 資料に出てくる言葉 | 中身 | ひとことで言うと | 出てくる資料 |
|---|---|---|---|
| 主体性を持って発注するための方策 | 管理組合が自分で考え、決めて発注できるようにする方法 | 自分たちで決める力 | 国の検討会資料 |
| 安心して発注するために必要な情報 | 金額や工事の中身を、管理組合が判断するための情報 | 判断の材料 | 国の検討会資料 |
| 適切な設計コンサルタントや工事業者の確保 | 管理組合が適切な事業者を選び、確保できるようにする方策 | 頼める相手の確保 | 国の検討会資料 |
| 情報の非対称性 | 工事の中身や価格の情報が、受注する側に偏っていること | 情報の差 | 国の検討会資料 |
| 発注者としてのノウハウの不足 | 発注の進め方の経験や知識が、管理組合に足りないこと | 経験の不足 | 国の検討会資料 |
| 客観的な判断材料の不足 | 業者選定、見積金額、コンサルの業務内容や報酬について、判断の材料が不足しているのではないか、という問題提起 | 比べる物差しの不足 | マンション管理センターの資料 |
| 中立的支援体制の必要性 | 中立の立場で管理組合を支える専門家や支援制度が必要ではないか、という問題提起 | 中立の相談先 | マンション管理センターの資料 |
マンション管理センターは、対策を考える着眼点として、相見積もり(複数の会社から見積りを取って比べること)を比べやすくする標準の見積様式や仕様書、工事項目ごとの実勢単価(実際の取引で使われる単価の目安)のデータ、コンサルの報酬を確かめるための参考情報、設計図などの履歴の保管と活用、中立の立場で伴走する専門家、業者の公募や選定、セカンドオピニオン(別の専門家から意見を聞くこと)を支える仕組みを挙げています。いずれも整備が決まったものではなく、検討の課題として示されたものです。検討会の顔ぶれは修繕談合で高く払った分は取り戻せるのかで紹介しました。今後は、12月に関係団体などへの聞き取り、1月に中間とりまとめの案を話し合い、3月下旬ごろに中間とりまとめを公表する予定です。
そもそも、うちの組合に選び方の決まりはありますか
まず確かめるのは、設計コンサルや施工業者の選び方を、細則や総会・理事会の決定として文書にしているかどうかです。国の調査では、大規模修繕の発注や業者選定のルールを持たない管理組合が、半数を超えています。
大規模修繕の検討体制を管理組合に聞いた設問(複数を選べる)では、理事会とは別に専門委員会などを設けて中心になったという答えが46.0%、理事会が中心になったという答えが39.4%でした(ここまで令和5年度マンション総合調査)。大規模修繕工事の設計コンサルタント業務や施工の受注実績がある企業に聞き、工事の事例を集めた別の調査(令和3年度)では、施工業者を決めたときの評価事項として、工事金額が63.1%、施工業者の実績が58.3%でした。
国の資料には、選び方をめぐる対照的な例が二つ載っています。一つは、設計会社が施工会社の候補5社のうち1社にだけ、少ない数量の工事内容を伝えていた例です。その会社の見積額が低くなって内定しましたが、契約の前に発覚しました。管理組合が説明を求めると設計会社は業務を辞退し、別の設計事務所と契約し直したところ、工事項目や仕様書に多くの問題が見つかって、書類をすべて作り直すことになりました。
もう一つは、透明性を意識して選んだ例です。設計会社の選定では、公募と紹介で集めた13社のうち5社と、管理組合の担当役員が個別に面談しました。予算を超えていた最高値の会社と、設計業務を十分に行えないと考えられる額だった最安値の会社を外して3社に絞り、設計に詳しい組合員に相談しながら、理事会の過半数が賛成するまで投票を重ねて決めています。施工会社の選定では、管理組合がゼネコン(総合建設会社)6社に提案を依頼し、書類審査で3社に絞ってから、理事会の投票を重ねて決めました。
マンション管理センターには、「候補会社の一部が報道の対象になっているが、そのまま総会に諮ってよいか」「計画では3.8億円だった工事が約5億円になった。見積りを第三者に検証してほしい」といった相談が寄せられています。令和7年3月に公正取引委員会の調査の動きが報じられてから、令和8年10月13日までの相談は累計275件で、理事長・理事・監事・専門委員からが147件、全体の53.5%でした。9月28日の排除措置命令のあとの半月ほどでも、39件が寄せられています。
では、いま何をすればよいのか
最初にするのは、いまの選定がどう進んでいるかが分かる書類を集めることです。設計コンサルとの契約書、候補の集め方を決めた理事会の議事録、届いている見積書をそろえ、誰が何を決めてきたかを理事会で共有します。
次に、選び方の手順の案を理事会で整理します。候補をどう集めるか(公募か紹介か)、何で比べるか(金額だけでなく実績や体制も)、候補の会社と利害関係のある人がいないか、どこまで絞ってどう決めるか。この四つがそろっていると、総会で説明しやすくなります。
そのとき、どの事項を理事会で決め、どの事項を総会に諮るかを、自分たちの規約や細則、これまでの総会の決議、承認済みの事業計画や予算で確かめます。国の資料の整理では、総会が意思決定の場、理事会が業務を進める場、専門委員会が理事会の相談に応じて検討する場です。標準管理規約では、細則を作ったり変えたりすること、大規模修繕のような特別の管理を行うこと、そのための修繕積立金を取り崩すことは、総会の決議事項です。手順を細則にするなら総会に諮ります。専門委員会を置いている場合は、その設置の目的と任された範囲を確かめたうえで、候補の比較や理事会への提案を担ってもらう方法があります。
見積書の見方に迷ったときに使えるのが、外の相談窓口です。住宅リフォーム・紛争処理支援センターの見積チェックは、原則として契約前の見積書の数量や単価などを、送られた資料から分かる範囲で確かめて助言する、無料の窓口です。国の資料は、見積金額の妥当性や業者の信頼性、工事内容の適正性を判断・評価するのは難しく、見積書の見方の助言はできる、と説明しています。自治体によっては専門家の派遣制度もあり、たとえば横浜市のマンションアドバイザー派遣は大規模修繕の進め方も相談でき、初回は無料です。横浜市は、見積書をアップロードすると地域や規模を考えた費用の相場が出るシミュレーターも、民間の事業者による無料の参考情報として案内しています。
施工業者との契約に談合違約金の特約を入れるかどうかは、大規模修繕の業者選定を切り分ける方法はあるかで説明しました。契約を結ぶ前に決めておく項目です。
選んだ経緯は、総会の資料で区分所有者に説明します。理事会は、必要に応じて専門委員会や専門家の力を借りながら、選び方の手順、比べた資料、総会の議案を整えます。設計コンサルなどの専門家は判断の材料を出す立場で、管理組合に代わって決める立場ではありません。
理事会だけで判断を抱えずに、中立の立場の意見を聞きたいときは、マンション管理士などの専門家に相談する方法があります。選び方の手順づくりや見積書の見方から相談でき、専門家を探すから相談先を探せます。
よくある質問
検討会のまとめが出るまで、工事は待ったほうがよいですか。
工事の時期は、検討会の日程ではなく、長期修繕計画、実際の傷み具合、調査・診断の結果、資金計画などを踏まえて、管理組合が判断します。迷うときは、調査・診断をした専門家に、待った場合の影響や、先に行う応急の対応があるかを確かめておくと、理事会で話し合いやすくなります。
管理会社やコンサルに頼るのは、やめたほうがよいですか。
やめる必要はありません。建物の調査や工事の設計には専門の知識が要り、管理会社が管理組合の運営を実務の面で支えることもあります。一方で、国の資料は、管理会社が設計コンサルとして業務をしたり、工事業者の選定を支援したり、工事を請け負ったりする場合もあると示しています。頼ること自体が問題なのではなく、頼む業務の範囲、報酬、候補の会社との関係を、管理組合の側で確かめておくことが大切です。
うちの地域にも、横浜市のような支援はありますか。
自治体の支援の中身はそれぞれ違います。専門家の派遣や相談窓口があるかは、市区町村のマンション支援のページで確かめられ、探し方は自分のまちの支援を理事会で探す手順で説明しました。見積チェックは、自治体の制度とは別の窓口です。
- 国の検討会が話し合うのは、管理組合が安心して主体的に発注するための方策と情報、適切な事業者を確保する方策で、年度末ごろに出るのは中間とりまとめであること
- 結論を待たずにできるのは、設計コンサルや施工業者の選び方の手順の案を理事会で整理し、どの事項を理事会で決め、どの事項を総会に諮るかを、規約や細則、これまでの総会の決議で確かめておくこと
- 見積書の見方に迷ったら、無料の見積チェックや、自治体によっては使える専門家の派遣など、第三者の目を借りること
国のまとめを待つあいだにも、手元の書類と選び方の決まりは確かめられます。次の発注に向けて、できるところからしっかり取り組んでおくことができます。
出典
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会」/第1回(2026年10月19日)の議事次第と配布資料
- 資料1 検討会規約(PDF)/第2条(目的)、第5条(公開)
- 資料3 検討会資料(PDF)/本検討会で議論いただきたい主なテーマ、マンション大規模修繕工事の関係者(総会・理事会・専門委員会の位置づけ、管理会社の関わり方)、相談窓口の質疑、(参考)これまでの対応(利益相反の事例、発注時の透明性確保を目指した取組事例)、リフォーム見積チェックサービス
- 資料4 マンション大規模修繕工事の談合に関する相談状況等(マンション管理センター)(PDF)/電話相談の件数と内訳、相談事例、基本的な課題、対策検討の着眼点
- 資料6 横浜市における談合等に対する取組について(PDF)/専門家派遣、費用シミュレーター
- 資料7 今後のスケジュール(PDF)
- 参考資料 検討会資料の補足(PDF)/令和5年度マンション総合調査(大規模修繕工事の検討体制〈重複回答〉、発注・業者選定のルール)、令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査(調査の対象、施工業者を決めるときの評価事項)
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」(令和7年10月17日改正)(PDF)/第48条(総会の議決事項)、第54条(理事会の議決事項)、第55条(専門委員会)
- 建設通信新聞「26年度末に方策策定/マンション修繕の適正発注/国交省」(2026年10月20日)/リードの引用
制度・条件の確認日:2026-10-20
管理規約の見直し
この記事の内容を、自分のマンションの規約に落とし込むには
記事で扱ったルールは、管理規約に書かれていて初めて総会で使えます。改正区分所有法(2026年4月1日施行)に合わせて、現行規約のどこを直すかを洗い出すところから始めます。
管理規約スタジオは、現行規約を取り込むと標準管理規約・改正法との差分を条文単位で洗い出し、新旧対照表と改正案を出力する実務者向けツールです(運営会社のサービス)。
管理規約スタジオを見るコネル
管理組合の相談コンシェルジュ
管理組合を中心に、情報・ツール・専門家をつなぐ、管理コネクトの案内役です。 制度や実務をかみくだいて整理し、判断はみなさまと専門家に委ねます。 口ぐせは「いっしょに、よい答えを見つけよう」。


