修繕積立金の運用を提案したら「元本割れ」「管理会社」「責任」で止まった──理事会で一つずつ確かめること
積立金の運用を理事会に出すと「元本割れが怖い」「管理会社が関わらない」「責任が持てない」で話が止まりがちです。三つの心配を中身ごとに分け、標準管理規約での決め方と役割分担を確かめ、運用する・しないを組合として決めるための手順を整理します。

理事会議事録見たら、修繕積立金を資産運用することに対して、①元本割れリスク、②管理会社の不関与、③責任持てない ということで必要性がないという結論となっていた。
この投稿が描いているのは、理事会の議事録にそう書かれていたところまでです。そのあと組合がどうしたかは書かれていません。ただ、並んでいる三つは、組合のお金を預かる理事なら誰でも抱きうる心配です。
管理組合の相談コンシェルジュをしているフクロウのコネルです。
この記事で持ち帰ってほしいことは三つです。
- 元本割れの有無や、満期の前にお金に換えるときに受け取る額の決まり方は商品ごとに違い、買った価格と満期に戻る額の差、途中で売るときの価格の動き、中途換金や中途解約の条件、発行体や金融機関の信用に分けて確かめられること
- 管理会社が運用の手続きを担わない場合は、契約で頼める事務と組合の中で担う事務を分け、続けられる確認の体制が作れるかを検討し、作れなければ見送りも選択肢になること
- 修繕積立金の保管と運用の方法は総会で決め、理事会に任せる範囲は、規約、使用細則等または総会決議ではっきりさせておくこと
三つの心配の中身、自分たちの組合の決まり、いま何をするか、の順に見ていきます。
三つの心配は、それぞれ何を心配しているのか
三つの心配は、中身を分けると確かめる先がそれぞれ違います。次の表は一つの公式な分類ではなく、理事会で話を進めるための整理です。
| 心配 | 中身を分けると | 確かめる先 | ひとことで言うと(コネルの補足) |
|---|---|---|---|
| 元本割れ | 買った価格と満期に戻る額の差、途中で売るときの価格の動き、中途換金や中途解約の条件、発行体や金融機関の信用 | 長期修繕計画と予算(お金を使う時期)、商品ごとの条件 | 使う時期と商品の性質を合わせる話 |
| 管理会社が関わらない | 管理委託契約に入っている事務と、入っていない事務 | 管理委託契約書と、管理会社への問い合わせ | 頼める事務と、組合の中で担う事務を分ける話 |
| 責任が持てない | 誰が決め、誰が手続きを進め、誰が監査するか | 規約、これまでの総会決議、組合の保険 | 決める場と、理事会に任せる範囲をはっきりさせる話 |
元本割れの有無や、満期の前にお金に換えるときに受け取る額の決まり方は、商品ごとに違います。市場で売買される国債や社債は、発行体(債券を発行した国や会社)が予定どおり返せれば満期に額面で戻りますが、額面より高く買っていれば戻る額は買った価格を下回り、満期の前に売ればそのときの市場の価格になります。利息まで含めた全体の損益は、買った価格、利率、持つ期間を合わせて確かめます。個人向け国債は額面で償還・中途換金される仕組みで、財務省は元本割れしない商品と説明しています。中途換金は発行から1年たてばでき、直前2回分の利子をもとにした所定の額(中途換金調整額)が差し引かれます。管理組合のような一般投資家も買える「個人向け国債プラス」は2026年12月募集分から始まる予定で、2026年10月5日の時点ではまだ買えず、金融機関によっては販売が遅れる可能性もあります。マンションすまい・る債は、初回の債券発行日から1年以上たち、修繕工事などのために中途換金するなど決められた条件を満たせば、購入元本に所定の利息を加えた額が支払われます。
社債やすまい・る債は預金ではないので、発行体の信用状況によって元本や利息の支払いに影響が出る可能性があります。預金保険では、利息が付かない、いつでも払い戻せる、引き落としなどに使えるという三つを満たす決済用預金は全額が保護され、定期預金や利息の付く普通預金などは、預金者一人あたり一つの金融機関ごとに元本1,000万円までと破綻した日までの利息等が保護されます。外貨預金のように対象外の預金もあるので、商品ごとに確かめます。
ですから、元本割れを心配するときに先に照らすのは、「そのお金をいつ使うか」と「途中で売る・換金する・解約するときの条件」です。商品ごとの条件は「修繕積立金の運用は物価高に効くのか」に、国債の価格が動く理由は「組合で買った国債が値下がりしていたら」にまとめています。
そもそも、うちの組合は運用をどう決めることになっていますか
まず、自分たちの管理規約と、これまでの総会決議を確認します。運用の決め方は組合ごとに違うからです。以下は、国土交通省の標準管理規約に沿った規約の場合の例です。
方針を決めるのは総会です。修繕積立金の保管及び運用方法は総会の決議事項で(48条七号)、運用の細則を作る場合も、規約や使用細則等の制定・変更・廃止は総会で決めます(48条一号)。ただし、総会が金融機関や銘柄まで毎回決めるとは限りません。総会で方針、対象の金額、商品の種類、期間などを決め、その範囲の具体的な判断を理事会に任せる形もあります。標準管理規約では、理事会は規約、使用細則等または総会の決議で理事会の権限とされた業務執行を決め(51条2項一号)、総会から付託された事項も決議します(54条1項十四号)。任せる範囲は、総会の議案と決議に書いておきます。
運用は組合の仕事として書かれています。管理組合の業務に「修繕積立金の運用」が挙がり(32条十号)、会計担当理事の仕事にも「運用」が入っています(40条3項)。修繕積立金の管理や運用にかかる費用は修繕積立金から出せるとされ(28条1項五号)、コメントは残高証明書などの発行手数料、保証料、印紙税、振込手数料を例に挙げ、管理費から出すこともできるとしています。運用で生じた損失の扱いを定めた規定ではありません。
理事長と役員の義務も書かれています。標準管理規約では、理事長は区分所有法上の管理者とされます(38条2項)。管理者の権利義務は委任に関する規定に従い(区分所有法28条)、委任を受けた人は、善良な管理者の注意(善管注意。その立場にふさわしい注意を払う義務)をもって事務を処理する義務を負います(民法644条)。役員全体については、法令、規約、使用細則等と総会・理事会の決議に従い、組合員のために誠実に職務を行う義務が定められています(37条1項)。
規約のコメントは、役員は組合の財産の毀損を防ぐよう努めるとし、特に外部の専門家が役員になる場合には、判断や執行の誤りに備えた賠償責任保険への加入などに努めること、故意・重過失による毀損は保険の対象外であることも示しています。
「責任が持てない」という不安を整理するには、誰が決め、誰が手続きを進め、誰が監査するかをはっきりさせることが大切です。標準管理規約の形では、理事会は任された範囲の業務執行を決めて理事の職務を監督し、実際の手続きは理事長や会計担当理事など組合の中で決めた担当者が行います。監事が業務の執行と財産の状況を監査してその結果を総会に報告し、理事長は監事の会計監査を経た収支決算案を通常総会に報告して承認を得ます(41条、59条)。ただし、総会で方針を決めたからといって、それだけで役員の義務がなくなるわけではありません。
では、いま何をすればよいのか
最初は、お金を使う時期の確認です。長期修繕計画、今年度の予算、近い工事の支払い時期、急な修繕への備えを確かめ、すぐ使えるように置くお金と、運用の候補にできるお金を分けます。全体の流れは長期修繕計画の簡易シミュレーションでもつかめます。
次に、候補の商品ごとに「満期まで持った場合」「途中で売る・換金する・解約する場合」「発行体や金融機関に信用上の問題が起きた場合」を並べ、工事代金の支払い時期に合わせて満期を分けます。予定外の途中売却や中途換金を減らせます。
三つ目は、管理会社への問い合わせです。残高の確認、帳簿への記録、満期の管理などが管理委託契約に入っているかを聞きます。入っていない事務は、手続きの担当、承認する人、残高や満期を照らし合わせる人を分けて決め、通帳や印鑑、ネット取引のログイン手段の管理も確かめます。役員の人数や引き継ぎを考えて、続けられる体制かどうかもここで見ます。
四つ目に、運用の方針を案にして総会に出します。書いておきたいのは、目的、対象にする金額の上限、期間、商品の種類、途中売却・中途換金・中途解約をする場合の判断の基準、理事会に任せる範囲、理事長から総会への報告の時期と理事会への経過報告の仕方です。細則にするか、総会決議にとどめるかは、自分たちの規約で確かめます。
五つ目に、「いまは運用しない」とする場合も、誰が決めるのかを確かめます。理事会で新しい提案を見送るのか、すでにある総会決議を変えるのかで、決める場が変わるからです。そのうえで見送る理由と次に見直す時期を議事録に残せば、次の理事会に経緯を引き継げます。
六つ目に、組合の保険に役員の賠償責任の補償があるか、運用の判断が対象になるかを保険会社に確かめます。補償の範囲は契約によって違います。
規約の読み方や方針案の書き方で迷ったら、管理組合の会計や規約に詳しい専門家に見てもらうと、抜けに気づきやすくなります。
よくある質問
総会で決めておけば、理事は責任を問われませんか
そうとは言い切れません。少なくとも理事長は区分所有法上の管理者として善管注意の義務を負い、役員全体も、規約により組合員のため誠実に職務を行う義務を負います。総会で決めた範囲を超えて進めた場合や、事実と違う説明で決議を得た場合などには、責任を問われる可能性があります。事実を正しく示して総会で方針を決め、その範囲で進めて報告することが基本で、個別の責任の有無は弁護士などの専門家に確かめる事柄です。
管理会社が「運用は扱えない」と言うのは、おかしいことですか
おかしいとは限りません。管理会社が担う事務の範囲は管理委託契約で決まるので、運用の手続きが契約に入っていないこともあります。断られたら、契約の範囲で何なら頼めるかを聞き、頼めない事務を組合の中で誰が担当し、誰が確かめるかを決めます。
運用しないと決めるのは、間違いですか
間違いではありません。組合の資金の状況や役員の体制を踏まえて見送ることも、方針の一つです。避けたいのは、理由を整理しないまま話が立ち消えになることです。決める権限のある場で決め、理由と見直す時期を議事録に残しておけば、次の理事会が続きから検討できます。
まとめ
- 元本割れの有無や、満期の前にお金に換えるときに受け取る額の決まり方は商品ごとに違い、買った価格と満期に戻る額の差、途中で売るときの価格の動き、中途換金や中途解約の条件、発行体や金融機関の信用に分けて確かめられること
- 管理会社が運用の手続きを担わない場合は、契約で頼める事務と組合の中で担う事務を分け、続けられる確認の体制が作れるかを検討し、作れなければ見送りも選択肢になること
- 修繕積立金の保管と運用の方法は総会で決め、理事会に任せる範囲は、規約、使用細則等または総会決議ではっきりさせておくこと
三つの心配を一つずつ確認して、運用するにしてもしないにしても、組合として決めた経緯を記録に残すところまで、しっかり取り組むことが大切です。
出典
- hideさん(@hidebo70)のポスト(X、2026年9月13日)/リードの引用
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」(令和7年10月改正)(PDF)/第28条第1項第五号(修繕積立金)とコメント第28条関係④、第32条第十号(業務)、第37条第1項(役員の誠実義務等)とコメント第37条関係①、第38条第1項から第3項(理事長)、第40条第1項・第3項(理事)、第41条第1項(監事)、第48条第一号・第七号(総会の議決事項)、第51条第2項第一号・第二号(理事会)、第54条第1項第一号から第四号・第十四号(理事会の議決事項)、第59条(会計報告)。案内ページはマンション標準管理規約
- 建物の区分所有等に関する法律(e-Gov法令検索)/第28条(委任の規定の準用)
- 民法(e-Gov法令検索)/第644条(受任者の注意義務)
- 財務省「個人向け国債 よくある質問(中途換金について)」/中途換金できる時期、換金金額の計算
- 財務省「個人向け国債プラス」・法人等向けQ&A(PDF)/法人等(一般投資家)への販売対象拡大の予定(令和8年12月募集分から)、金融機関によって販売開始が遅れる可能性(Q4)、元本割れしない旨(Q6)
- 住宅金融支援機構「マンションすまい・る債」・ご案内(全体版、PDF)/中途換金の条件、債券の安全性
- 金融庁「預金保険制度の解説」(PDF)/決済用預金の要件、一般預金等の保護の範囲、保護対象外の預金
制度・条件の確認日:2026-10-05
管理規約の見直し
この記事の内容を、自分のマンションの規約に落とし込むには
記事で扱ったルールは、管理規約に書かれていて初めて総会で使えます。改正区分所有法(2026年4月1日施行)に合わせて、現行規約のどこを直すかを洗い出すところから始めます。
管理規約スタジオは、現行規約を取り込むと標準管理規約・改正法との差分を条文単位で洗い出し、新旧対照表と改正案を出力する実務者向けツールです(運営会社のサービス)。
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管理組合を中心に、情報・ツール・専門家をつなぐ、管理コネクトの案内役です。 制度や実務をかみくだいて整理し、判断はみなさまと専門家に委ねます。 口ぐせは「いっしょに、よい答えを見つけよう」。


