資産運用・財務

修繕積立金の運用は物価高に効くのか──利率より先に確かめる、口座の名義と印鑑

工事費も管理費も上がるなか、修繕積立金の運用でどこまで補えるのか。運用で補える部分と補えない部分を分け、管理会社が管理者になる方式の印鑑の扱いや組合自身の口座など「失わない」ための確認点を整理し、すまい・る債や国債、預金の条件を並べます。

2026年10月4日
約11分
コネルコネル(管理組合の相談コンシェルジュ)
修繕積立金の運用は物価高に効くのか──利率より先に確かめる、口座の名義と印鑑
目次
  1. 物価高は、管理組合のどこに効くのですか
  2. そもそも、組合のお金は組合の手で守られていますか
  3. では、いま何をすればよいのか
  4. よくある質問
  5. まとめ
  6. 出典

建設費や人件費の高騰を理由に、総会に管理費と修繕積立金の値上げ議案が出る。そんな場面が各地のマンションで続いています。次の投稿は、値上げ議案を受け取った住民の側から書かれたものです。

建設費、人件費、物価その他の高騰を踏まえてマンションの通常総会で管理費・修繕積立金値上げ、今後の対策等の議案が出された。その前に住民へのアンケートも行われ結果や意見も公開。総会の資料、長期修繕計画を見て理事会の皆様がちゃんと先を見据えてくれているのがわかりうれしい。

— 田城 愛さん(@9innings)のポスト

この投稿が描いているのは、値上げ議案が出る前に理事会がアンケートで住民の声を集め、長期修繕計画とあわせて示した場面です。議案の結末までは書かれていません。

国の調査では、計画に比べて修繕積立金が足りていないマンションが三分の一を超え、工事に関わる人件費の単価も長く上がり続けています。こうした話が理事会に出ると、「積立金を運用して、値上がり分を補えないか」という声もあがります。管理組合の相談コンシェルジュ、フクロウのコネルです。

この記事で持ち帰ってほしいことは三つです。

  • 運用益が不足の一部を補うことはあっても、管理費や工事費の上昇を運用だけで賄う前提にはできないこと
  • 運用より先に、組合のお金が組合のものと分かる口座で、組合の目の届く形で管理されているかを確かめること
  • 運用を考えるのは近い支払いに必要なお金を確保したあとの資金で、標準管理規約では保管と運用の方法は総会で決める事項であること

まず物価高が管理組合のどこに効くかを整理し、次に組合のお金を「失わない」ための仕組みと、その例外、さらに施行規則87条では直接決まらない組合内部の権限分担や引き継ぎを確かめ、最後に実在の預け先の条件を見ながら、理事会がいま何をするかを順に見ていきます。

物価高は、管理組合のどこに効くのですか

物価高が効く場所は、毎月の管理費、将来の修繕工事費、口座に置いてある積立金の三つです。運用は三つ目の目減りを和らげる手段で、管理費や工事費の単価そのものを下げる力はありません。

理事会で整理しやすいよう、効く場所ごとに分けると次のようになります。

効く場所何が起きるか運用との関係(コネルの補足)
管理費(委託費・清掃・電気代など)管理会社への委託費、清掃や設備点検の費用、共用部分の電気代が上がる運用では費用の単価は下がらない。予算、委託の仕様や契約条件、管理費の額を見直す
修繕工事費(人件費・資材)同じ工事でも見積りが前回より高くなり、計画の金額が足りなくなる運用では工事の単価は下がらない。長期修繕計画、工事の時期や仕様、積立額、資金の調達方法を見直す
口座の積立金(お金の価値の目減り)金額は減らなくても、そのお金で発注できる工事の量が減っていく利息で目減りを和らげられる。運用益が不足の一部を補うこともある

令和5年度のマンション総合調査では、回答したマンションの36.6%で、実際の修繕積立金が計画上の額を下回っていました。計画より2割を超えて不足しているマンションも11.7%あります。

工事費の動きを見る目安の一つに、国が毎年決める公共工事設計労務単価(公共工事の見積りに使う職人の人件費の単価)があります。令和8年3月から使う単価は、全国全職種の単純平均で前年度より4.5%上がり、14年続けての引き上げになりました。これは公共工事の積算に使う単価で、マンションの修繕工事の価格そのものではありません。それでも、工事を担う人の費用が上がり続けている流れは読み取れます。

これに対して、後半で見る預金や債券は、期間、利率の種類、募集価格、途中で換金するときの仕組みがそれぞれ違います。公共工事設計労務単価の伸び率とも性質が異なるので、数字をそのまま比べたり、単純に引き算したりはできません。それでも、継続的な費用の上昇を運用益だけで追いかける計画は立てにくいのが実情です。運用益で足りるかどうかは、自分の組合の不足見込みの額と、税や換金の条件まで含めた運用益の見込みの額を、金額で比べて判断します。

そもそも、組合のお金は組合の手で守られていますか

運用で少し増やすことより先に確かめたいのは、組合のお金を丸ごと失わない仕組みがあるかどうかです。いまは、管理会社が受託して扱う組合のお金について、法令の仕組みがかなり整っています。気をつけたいのは、管理会社が例外的に印鑑等を保管できる場面と、施行規則87条では直接決まらない、役員の間の権限分担や代表者が替わったときの引き継ぎです。

いまの仕組みが整う前には、管理会社の破産のあと、組合のお金を原資とする預金の帰属が裁判で争われた例もありました。東京高等裁判所の平成11年8月31日判決は、破産した管理会社が自社名義の口座で受け入れた管理費等を原資とする定期預金について、銀行が貸金との相殺を主張した事件です。裁判所は、管理会社が自分の財産として扱っていなかったことや、決算報告で区分所有者が知っていたことなどを総合して、預金者を管理組合と認めましたが、そこにたどり着くまでに裁判が必要でした。その後、国土交通省は、一部の管理業者による横領事件などで組合の財産が損なわれる事態が続いていることを受けて、マンション管理適正化法の施行規則を改め、管理会社による分別管理(組合のお金を自社のお金と分けて管理すること)を厳しくしました。改正は平成22年5月1日に施行され、新しい管理の方法は同日以降に結ぶ管理委託契約から適用されています。

その中心が、いまの施行規則87条です。修繕積立金を預ける保管口座(修繕積立金を預けておく口座)と、収納・保管口座(管理費等を集めてそのまま預けておく口座)は、「管理組合等」(管理組合やその管理者など)を名義人とする口座とされています。収納口座(いったん管理費等を集める口座)と保管口座を分ける方式では、原則として管理会社が保証契約を結んでおく必要があり、保証の対象になる金額は修繕積立金をどの口座に入れるかで変わります。管理会社は、保管口座や収納・保管口座の印鑑、預金の引き出し用カードなどを保管しないことも、原則として定められています。

ただし、印鑑等の保管には例外が二つあります。一つは、管理組合に管理者がいない間の、選ばれるまでの比較的短い期間だけ保管する場合です。もう一つは、管理会社自身が管理者になっている場合で、管理会社やその関係者のほかに保管を引き受ける人がいないこと、不正な利用や紛失を防ぐ保管体制があること、口座の残高以上の保証契約があること、口座の名義が管理組合のものと一目で分かること、これらを区分所有者に説明し書面を渡したうえで集会で決議したこと、のすべてを満たす必要があります。マンション管理業協会の「マンション管理会社状況調査2026」でも、管理会社が管理者になる方式を受託している会社に印鑑等の保管者を尋ねたところ、管理組合の監事や第三者のほか、管理会社自身や同じグループの会社という回答がありました。調査票は、自社で保管している場合は施行規則87条4項を守っていることを前提に答える形で、各社の守り方を個別に確かめた結果ではありません。

もう一つは、施行規則87条では決まらない、組合の側の管理です。87条は、管理会社が組合から委託を受けて管理事務を行う場面を定めたものです。役員の間で通帳や印鑑、取引の権限をどう分けるか、代表者が替わったときにどう引き継ぐかまでは、87条は直接定めていません。国土交通省が平成17年に示したマンション管理標準指針は、標準的な対応として「管理組合の通帳と印鑑は、それぞれ異なる者が保管している」ことを挙げています。

運用を始めると、この管理の対象が増えます。新窓販国債は紙の証券がなく、初めて買う場合は購入する金融機関に国債の口座を開き、その口座で管理します。代表者や取引の権限を持つ人が替わったときは、金融機関の手続きに従って変更と引き継ぎをします。すまい・る債は、購入した債券を住宅金融支援機構が預かります。組合の側では、代表者、届出印、元利金の振込先口座などの登録内容を管理し、変更があったときは機構の所定の手続きをします。管理会社に出納や手続きの一部を委託している場合は、管理委託契約で管理会社が何を担うかも確かめます。商品を選ぶ前に、誰が何を管理し、次の役員へどう引き継ぐかを決めておくことが大切です。

では、いま何をすればよいのか

理事会が最初にやることは、商品探しではなく、組合のお金の棚卸しです。どこに、どんな名義で、いつまで、いくら置いてあるかが分かってはじめて、運用に回せるお金があるかどうかを話し合えます。

まず、口座と預け先の一覧をつくります。名義、金融機関、預け方(普通預金・定期預金・債券など)、金額、満期、利率を一枚にまとめ、通帳と印鑑の保管者、払い戻しの操作と承認をする人も書き込んでおくと、次の確認が楽になります。残高証明などの資料は、管理会社に頼んでそろえてもらう方法もあります。

次に、長期修繕計画(将来の修繕工事の時期と費用の見込みを並べた計画)の収支表と日々の資金繰りで、いつ、いくら使うかを確かめます。数年のうちに大きな支出を予定しているお金は、利率よりも、必要なときに元本を大きく損なわずに引き出せるかを優先して考えます。長期修繕計画の簡易シミュレーションで、残高がいちばん少なくなる年の見当をつけておくと、話し合いの出発点になります。

そのうえで、近い支払いに必要なお金を確保したあとの資金について、預け先の条件を同じ物差しで並べます。下の表は、管理組合が保管や運用の方法を考えるときの代表例を、2026年10月4日時点で整理したものです。募集中のもの、募集を終えた直近の例、これから始まる予定のものが混ざるので、状態の列で分けています。特定の商品を勧めるものではなく、実際の条件は総会に諮る時点で改めて確かめます。

預け先状態(10月4日時点)条件の例(税引前)途中で引き出すとき注意点
円定期預金(三菱UFJ銀行の公表金利の例)申込時の金利を要確認1年0.500%、5年1.000%、10年1.250%(2026年8月3日改定後)。利息の付かない決済用預金もある中途解約はできるが、約定より低い利率になることが多い預金保険の対象。決済用預金(引き落としなどに使え、いつでも払い戻せ、利息が付かない預金)は全額、利息の付く預金は金融機関ごとに預金者1人当たり元本1,000万円までと利息等が保護される
マンションすまい・る債(住宅金融支援機構)通常募集は10月9日まで(先着順で早く締め切ることがある)。追加募集は11月2日から2027年1月15日まで2026年度の10年満期時年平均利率は、通常2.000%、ステップアップ2.050%、認定2.100%。10年間の利息を年平均で表した数字で、毎年同じ利率という意味ではない初回の債券発行日から1年以上たてば、修繕工事などのために1口(50万円)単位で、手数料なしで換金でき、購入金額に所定の利息を加えた額が支払われる預金ではなく、政府保証の付かない機構の債券で、預金保険の対象外。保有者には優先して弁済を受ける権利があるが、機構の信用状況が悪くなると、元本や利息の支払いが滞ったり元本割れが起きたりする可能性があると機構自身が案内している。応募には管理組合の代表権などを確かめる書類が要る。手続きの流れはすまい・る債の記事で整理している
新窓販国債(財務省)9月債は募集終了。毎月募集がある9月債の10年は表面利率2.7%、応募者利回り2.943%(額面100円につき98円16銭で募集)。5年は表面利率2.2%、応募者利回り2.171%(同100円12銭で募集)。法人や団体も買え、5万円から1回3億円まで満期前は市場で売るため、そのときの価格になる金利が上がると売値は下がる。買ったあとの値下がりの考え方は国債の値下がりの記事で扱っている
個人向け国債プラス(財務省)12月募集分から、一部の法人等にも販売対象を広げる予定変動10年・固定5年・固定3年、1万円から発行から1年たてば国の買い取りで換金でき、個人も法人等も、直前2回分の利子に相当する額をもとにした金額が差し引かれる財務省の案内では、販売対象の例にマンション管理組合と管理組合法人が挙がっている。金融機関によっては法人等への販売開始が遅れる可能性もあるので、開始時期と必要書類を取扱金融機関に確かめる。理事会の準備は個人向け国債の記事にまとめている

表面利率は、額面に対して1年間に支払われる利子の割合です。応募者利回りは、受け取る利子と、募集価格と満期の償還額との差を合わせて、満期まで持った場合の年率に直したものです。新窓販国債は満期に額面100円につき100円で償還されますが、募集価格が額面と違うことがあるので、払った金額と満期に戻る金額は同じとは限りません。

表を見るときは、利率の高さより先に「途中で引き出すとき」の列を見ます。修繕工事の時期が前にずれたとき、どの預け先から、どれだけの手間や損失で換金できるかは、管理組合にとって重要な確認点の一つだからです。発行体の信用や預金保険の上限も、あわせて確かめます。

最後が、総会に向けた準備です。標準管理規約では、修繕積立金の保管及び運用方法は総会の決議事項です(48条七号)。修繕積立金は管理費と分けて経理することも定められています(28条4項)。理事会は、自分たちの規約と過去の総会決議を確かめたうえで、運用の目的、対象の金額、期間、候補となる預け先、途中で引き出すときの条件、口座と印鑑等の管理方法をまとめて議案にします。総会で方針が決まったあとは、その決議と規約の範囲で理事会が具体的な進め方を決め、理事長や担当の理事が手続きを進めます。通常の管理委託では、管理会社は委託契約の範囲の事務を担い、専門家は助言や判断材料を出します。管理会社が管理者を兼ねる方式では役割と権限が違うので、規約、総会決議、管理者としての契約を別に確かめます。説明の最初に運用の役割を「目減りを和らげる補助策」と伝えておくと、値上げの議案と運用の議案が混ざらず、住民も判断しやすくなります。

口座の名義の切り替えや、規約に運用の決まりをどう書くかで迷ったら、外の目を借りるのも一つの方法です。管理組合の会計や規約に詳しい専門家に、一覧と長期修繕計画を見てもらうと、見落としに気づきやすくなります。

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よくある質問

運用すれば、値上げしなくて済みますか

運用だけで値上げを避けられるとは限りません。運用益が必要な改定の幅を小さくする可能性はありますが、まず長期修繕計画で見込まれる不足の額と、税や換金の条件を含めて現実的に見込める運用益の額を比べます。継続的な費用の上昇を、運用だけで賄う前提にはしません。

元本割れが心配です

元本の戻り方は預け先ごとに違います。新窓販国債は満期に額面で償還されますが、途中で売るとそのときの価格になり、買った価格を下回ることがあります。すまい・る債は、決められた中途換金なら購入金額に所定の利息を加えた額が支払われますが、預金ではなく政府保証の付かない機構の債券です。機構の信用状況が悪くなった場合には、元本や利息の支払いが滞ったり、元本割れが起きたりする可能性があります。預金は預金保険の範囲で保護されますが、利息の付く預金には金融機関ごとの上限があります。使う時期、途中の換金の条件、保護の仕組みを並べて比べます。

管理会社に任せてよいですか

残高証明の取り寄せや書類づくりなどの事務を頼むことと、口座の名義、印鑑等の保管、運用の決定を任せきりにすることは別のことです。事務を委託していても、口座が組合のものと分かる名義になっているか、印鑑等の保管者、払い戻しの操作と承認をする人、残高を照らし合わせる人がどう分かれているかを、組合の側で確かめます。決算報告と監事の監査で定期的に照らし合わせることは、預金の帰属や不正な払い戻しをめぐる争いや損失のリスクを下げる助けになります。

まとめ

  • 運用益が不足の一部を補うことはあっても、管理費や工事費の上昇を運用だけで賄う前提にはできないこと
  • 運用より先に、組合のお金が組合のものと分かる口座で、組合の目の届く形で管理されているかを確かめること
  • 運用を考えるのは近い支払いに必要なお金を確保したあとの資金で、標準管理規約では保管と運用の方法は総会で決める事項であること

物価高の不安には、まず口座の一覧と長期修繕計画を確認して、しっかり取り組むことで答えられます。口座の名義と印鑑等の管理、使う時期、預け先の条件の三つがそろえば、値上げの議論も運用の議論も、根拠をもって進めやすくなります。

出典

制度・条件の確認日:2026-10-04

管理規約の見直し

この判断を進めるとき、規約が旧法のままになっていませんか

修繕・お金・運営の判断は、最終的に総会決議と管理規約の条文で決まります。改正区分所有法(2026年4月1日施行)で決議要件や手続きが変わったため、規約側の確認も合わせて進めるのが安全です。

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現行規約と改正法のずれを管理士が洗い出し、総会に出せる改正案まで伴走します。「うちのマンションではどこが変わるのか」から相談できます。

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