管理会社から「会計」を外すと、何が変わるのか──お金を誰が出し入れし、誰が確かめるか
委託費の見直しで「会計だけ外す」案が出たとき、組合に戻ってくる仕事と、法律が管理会社に課している義務がどう変わるかを整理しました。横領をめぐる判例と今夏の行政処分から、理事会が外す前に確かめることを順に解説します。

目次
マンション管理業協会の受託動向調査で、会員の管理会社が受託している管理組合の数が、前の年を下回りました。業界紙によれば、数が分かる昭和60年以降で初めてです。業界紙は基幹事務の受託の形を見直す組合も背景とみていますが、協会は理由を示していません。同じ夏には、管理会社の元従業員の着服で、国が管理会社2社に指示処分を出しました。
理事会で委託費を見直すと、「会計だけ外せば安くなるのでは」という案が出ることがあります。けれど、外すと何が組合に戻り、お金の守りがどう変わるのかは、あまり話題になりません。管理組合の相談コンシェルジュ、コネルです。
この記事で持ち帰ってほしいことは三つです。
- 「会計」は収支をまとめる仕事とお金を出し入れする仕事の二つでできていて、契約から外した業務は、組合が担うか別の委託先を決める必要があること
- 法律が管理会社に課している義務は、会計を外すとそのまま続くとは限らないので、外したあとの守りを契約と組合の決まりで確かめ、足りない部分を補うこと
- 判例と処分では、お金をめぐる問題の現れ方がそれぞれ違うので、お金を処理する人とは別の人が銀行の記録を確かめる仕組みを先に決めること
会計の中身を表で確かめ、うちの組合のお金の持ち方を見たうえで、判例と処分から分かることを振り返り、最後に外す前にやることを順に並べます。
管理会社に任せている「会計」とは、何のことですか
この記事では、基幹事務のうち「収支の調定」と「出納」をまとめて「会計」と呼びます。調定(ちょうてい)は予算案・決算案のたたき台を作り収支をまとめる仕事、出納(すいとう)はお金の出入りを扱う仕事です。標準管理委託契約書の別表から、会計にあたる部分を並べ直すと次のようになります。「ひとことで言うと」の列は、コネルの補足です。
| 呼び方 | 中身(標準管理委託契約書の別表) | ひとことで言うと | 外したあとに実務を担う人 |
|---|---|---|---|
| 収支の調定 | 収支予算案の素案の作成、収支決算案の素案の作成、収支状況の報告 | 予算と決算のたたき台を作り、毎月の収支を報告すること | 会計担当理事か、新たな委託先 |
| 出納のうち収納 | 管理費等の収納、現金収納業務 | 区分所有者から管理費や修繕積立金を集めること(現金での収納を任せているかは契約による) | 会計担当理事か、新たな委託先 |
| 出納のうち督促 | 管理費等滞納者に対する督促 | 契約で決めた方法と期間で支払いを促し、状況を組合に報告すること | 会計担当理事か、新たな委託先 |
| 出納のうち通帳等の保管 | 通帳等の保管者 | 通帳や印鑑などを誰が保管するかを契約で決めること | 契約で管理会社が保管していたものだけが、組合側に戻る |
| 出納のうち支払い | 経費の支払い | 予算と組合の承認にもとづいて、支払いの手続きをすること | 会計担当理事か、新たな委託先 |
| 出納のうち帳簿の管理 | 会計に係る帳簿等の管理 | 入出金の帳簿と領収書などを整理して保存すること | 会計担当理事か、新たな委託先 |
| 修繕の企画・実施の調整 | マンション(専有部分を除く)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整 | 修繕の計画づくりや工事の段取りを手伝うこと | 会計を外すだけなら管理会社に残せる |
マンション管理適正化法は、表の「収支の調定」「出納」「修繕の企画・実施の調整」の三つを「基幹事務」と呼んでいます。理事会や総会の運営の手伝い、名簿の整備などは基幹事務ではないので、会計を外しても管理会社に残せます。督促だけを残す契約も考えられ、組合に戻るのは実際に外した業務です。どの行を外すかを行ごとに決めます。契約や細則を決める役目は、委託先に移りません。
そもそも、うちの組合のお金は、いま誰がどう持っていますか
契約書と口座の一覧で予定されている持ち方を確かめ、銀行の記録で実際の運用と合っているかを見ます。理事会で出してもらうものは、次のとおりです。
- 管理委託契約書(事務管理業務の別表と、通帳や印鑑を誰が保管するかの欄)
- 預金口座の一覧(名義、金融機関、通帳と届出印をそれぞれ誰が持っているか)
- キャッシュカード、インターネットバンキング、認証の機器の有無と、それぞれを使う人・承認する人の一覧
- 銀行が出した直近の入出金明細(オンラインで見るなら、組合側に付けた閲覧だけの権限で銀行の画面を直接見る)
- 管理会社が毎月出している収支の書面と、定期の管理事務の報告の資料
書類のありかが分からないときは、輪番で理事が回ってきたら の集め方から始めると進めやすくなります。
管理会社が法律上の管理事務を受託してお金を扱う場合、法律と施行規則は次の義務を課しています。預け方は三つで、収納口座からその月の費用を差し引いた残りを翌月末日までに保管口座へ移す方法、修繕積立金は保管口座に直接入れ、それ以外は同じく残りを翌月末日までに移す方法、組合名義の一つの収納・保管口座で扱う方法です。保証や印鑑の扱いは方法で変わるので、契約書で確かめます。義務があっても不正がなくなるわけではありません。
| 決まり | 管理会社に課されていること | 外したあとに組合で決め直すことの例 |
|---|---|---|
| 口座の名義 | 修繕積立金などを預ける保管口座は、管理組合の名義にする | 組合名義の口座だけで出し入れし、役員が替わったときの届出の手順を決めておく |
| 印鑑 | 保管口座の印鑑や預金を引き出すカードなどは、原則として保管しない | 払い出しに使える手段を、一人に集めない |
| 保証 | 収納口座と保管口座を分ける二つの方法では、原則として、収納口座に入る一か月分の徴収額などの合計以上の保証契約を結ぶ(組合名義の収納口座に直接入金されるか、管理会社や管理会社から頼まれた者が徴収せず、かつ管理会社がその口座の印鑑などを保管しない場合は不要) | 役員や別の委託先に、同じ保証の義務が自動的に生じるわけではないので、組合名義の口座への直接入金や二人での承認、保険の利用などを考える |
| 毎月の書面 | その月の収入と支出の状況を書面にし、翌月末日までに渡す | 委託先か会計担当理事が毎月の収支を書面にし、理事会に出す |
| 管理事務の報告 | 管理業務主任者に、処理した管理事務を定期に報告させる | 新たな委託先に、処理した事務と収支を根拠の資料とともに報告してもらうことを契約に書く |
| 分別管理 | 修繕積立金などを、自社や他の管理組合のお金と分けて管理する | 役員個人や委託先のお金と混ざらないよう、組合名義の口座だけで扱う |
委託先からの報告と組合の決算は別の手続きで、決算はこれまでどおり監事の会計監査を経て通常総会で承認を得ます。この記事は、理事会が組合を運営する形を前提にしています。
判例と処分は、何を教えていますか
事例ごとに問題になった点は違うので、一つずつ確認事項に置き換えます。判例は、判例誌の掲載情報と複数の判例解説で一致する範囲の要約で、判決の全文は確認できていません。
通帳と印鑑を一人に任せ、残高を書面で確かめていた
会計担当理事の横領で、当時の理事長と会計監査の担当役員の責任が問われた裁判です(東京地方裁判所 平成27年3月30日判決)。判決上は「自治会」と呼ばれる団体の権利義務を、管理組合法人が承継して訴えました。会計担当理事は通帳と銀行印を任され、残高証明書を偽造して払戻しを続けていました。請求の対象になった損害の元本は、約5,489万円です。
裁判所は、偽造された残高証明書を信用して通帳を見なかった監査役員と、総会直前に簡単な説明を受けるだけで残高を確かめなかった理事長に、注意義務違反を認めました。会計に権限のなかった副理事長は責任なしです。役員の謝礼がわずかで構成員の関心も低かったことなどから、二人の賠償責任は9割減らされました。横領した本人の責任を減らしたものではなく、回収できない損害は組合に残る可能性があります。
組合で確かめることは、会計を処理する人とは別の人が、通帳や銀行の明細を直接見る手順があるかです。いまの監事は、理事会から独立して監査します。
通帳と印鑑を分けていても、再発行という抜け道があった
理事長の横領で、管理会社の責任が問われた裁判です(東京地方裁判所 平成17年9月15日判決)。通帳は管理会社、届出印は理事長が持っていましたが、理事長は虚偽の紛失届で通帳の再発行を受けて払い戻しました。判決は、分けて持つのは一方の意思だけで払い戻せないようにするためだとしています。
管理会社は、最初の無断の再発行を知り不自然な説明を受けたあとも手を打たず、横領を知っても1か月以上報告しませんでした。この事案の事情から、因果関係があるとされた損害の4割を管理会社が負うとされました。組合側でも、会計担当理事が務めを果たさず、監事の監査も行われていませんでした。
組合で確かめることは、通帳の再発行や普段と違う払い出しの連絡が誰に届くかです。
管理会社名義の預金は、倒産したときに誰のものかが争われた
管理会社が自社名義の定期預金で管理費等を預け、銀行が質権の設定を受けたあと、破産した事案です(東京高等裁判所 平成12年12月14日判決)。解説によれば、口座がマンションごとに分けられ、銀行もその事情を知り得たことなどから、裁判所は組合を預金者と認め、質権を無効としました。名義が管理会社でも組合のものになる、という一般的な決まりではありません。
組合で確かめることは、少なくとも保管口座か収納・保管口座が組合名義かです。管理会社名義の収納口座は、それだけで問題とは決めず、方法や保証契約、保管口座へ移す期限を確かめます。会計を外したあとは、入金先も組合名義にそろえる案を考えます。
行政処分では、着服と虚偽の報告が問題になった
令和8年7月に近畿地方整備局が、8月に関東地方整備局が、元従業員の着服を理由に管理会社へ指示処分を出しました。近畿の処分では、毎月の収支の書面と管理事務の報告に事実と異なる記載をしたことも法律違反とされています。関東の公表資料には手口の記載がなく、どちらも着服の額は公表されていません。
では、会計を外す前に、いま何をすればよいのか
外す前に確かめることを、費用の内訳から総会での決め方まで、六つの順に並べます。
1. 委託費の見積りを分けてもらう
事務管理業務の費用を基幹事務とそれ以外に分けてもらい、差額を確かめます。値上げを告げられたときの進め方は、管理会社から「値上げ」「撤退」を告げられたら にまとめています。
2. 戻ってくる仕事の担い手を決める
督促、通帳の管理、支払いの手続き、帳簿、予算案と決算案のたたき台を、組合で担うか新たな委託先に頼むかを決めます。標準管理規約では会計担当理事が会計業務を行う役なので、役員が毎年替わる組合では、引き継ぎまで含めて続けられるかを考えます。
3. 新たな委託先に頼むなら、守りを契約に書く
記帳、払い出しの承認、銀行の記録との照らし合わせを、一つの委託先や一人に集めないことが大切です。委託先に支払いの手続きを頼んでも、承認とあとからの確認は組合側の別の人が行います。契約書には、組合名義の口座、毎月の報告、銀行の記録の出し方、不正を知ったときの報告、契約終了時の引き渡しを書きます。督促の法的な回収は弁護士などに相談します。引き受け先の比べ方や契約・細則のつくり方は、専門家を探す からマンション管理士などに相談できます。
4. 組合の中の決まりをつくる
通帳、届出印、カードと暗証番号、インターネットバンキングの権限など、払い出しに使える手段を洗い出し、作る人、承認する人、照らし合わせる人を分けます。再発行の連絡先も銀行に確かめます。手順の案は理事会が作り、使用細則等の制定・変更は標準管理規約では総会の決議事項なので、規約で理事会に任された範囲を確かめます。規約や会計の整い具合は、管理状況のセルフチェック でも確かめられます。
5. 監事の監査を、銀行の記録と照らし合わせる形にする
標準管理規約では、監事はいつでも財産の状況を調査できます。通帳や銀行の明細、残高証明書を監事が自分で確かめられる受け取り方を決めておきます。
6. 総会での決め方を確かめる
理事会が契約案を作り、管理委託契約の締結と修繕積立金の保管及び運用方法は、標準管理規約では総会の決議事項です。いまの契約を変更して会計を外すなら、業務を減らす変更は国の通達が「同一の条件」として示す変更に当たらないので、総会の前に説明会で重要事項の説明を受けます。別の契約に切り替える場合は、手続きを管理会社と所管の地方整備局に確かめます。
よくある質問
会計を外すと、委託費はどのくらい下がりますか
一概には言えません。項目ごとに分けた見積りで差額を確かめ、新たな委託先への費用や役員の手間と比べます。
会計を外しても、滞納の督促だけ管理会社に頼めますか
契約で決めることができます。督促は出納の一部なので、その行だけ残す形も考えられます。引き受けるかは管理会社の方針によるので、法律の扱いとあわせて書面で話し合います。
通帳と印鑑を別々の役員が持っていれば、安心ですか
分けることには意味がありますが、カードやインターネットバンキングの権限が一人に集まれば、その人だけで払い出せる場合があります。平成17年の判決の事案のように、再発行で分けた意味がなくなることもあるので、作成・承認・照らし合わせを別の人が担い、再発行の連絡先も確かめます。
まとめ
- 「会計」は収支をまとめる仕事とお金を出し入れする仕事の二つでできていて、契約から外した業務は、組合が担うか別の委託先を決める必要があること
- 法律が管理会社に課している義務は、会計を外すとそのまま続くとは限らないので、外したあとの守りを契約と組合の決まりで確かめ、足りない部分を補うこと
- 判例と処分では、お金をめぐる問題の現れ方がそれぞれ違うので、お金を処理する人とは別の人が銀行の記録を確かめる仕組みを先に決めること
委託費の差額だけでなく、誰がお金を処理し、誰が承認し、誰が銀行の記録と照らし合わせるのかを一つずつ確認して、しっかり取り組むことが大切です。
出典
- マンション管理業協会「令和8年マンション管理受託動向調査結果概要」/リードの調査(受託管理組合数・棟数の前年比)
- マンション管理新聞「管理協・受託動向調査に異変」(2026年9月25日)/リードの業界紙の報道と見方
- 国土交通省 近畿地方整備局「マンション管理業者に対する監督処分について」(令和8年7月31日)(PDF)
- 国土交通省 関東地方整備局「マンション管理業者に対する監督処分」(令和8年8月6日)(PDF)
- マンションの管理の適正化の推進に関する法律/第2条第6号・第7号(基幹事務、マンション管理業)、第72条(重要事項の説明)、第76条(財産の分別管理)、第77条(管理事務の報告)
- マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則/第87条(分別管理の方法、保証契約、印鑑等の保管、毎月の書面、口座の名義)
- 国土交通省 関東地方整備局「マンション管理業の新規登録、更新登録及び変更届についてのQ&A」(PDF)/Q2(基幹事務を全て含む事務の受託)
- 国土交通省「マンションの管理の適正化の推進に関する法律に基づく財産の分別管理等について」(PDF)/変更契約の重要事項説明
- 国土交通省「マンションの管理の適正化の推進に関する法律第72条に規定する重要事項の説明等について」(平成14年2月28日 国総動第309号)(PDF)/「同一の条件」に含まれる変更の範囲
- 国土交通省「マンション標準管理委託契約書」(令和7年12月12日改正。別表第1の項目は令和5年9月11日改訂版の本文で確認)
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」(令和7年10月17日改正)(PDF)/第33条、第40条第3項、第41条、第48条第一号・第七号・第十七号、第59条、第62条
- 東京地方裁判所 平成27年3月30日判決(判例時報2274号57頁)/参照した判例解説:新銀座法律事務所、マンション管理の弁護士相談
- 東京地方裁判所 平成17年9月15日判決/参照した判例解説:AGL法律事務所
- 東京高等裁判所 平成12年12月14日判決(金融法務事情1621号33頁)/参照した判例解説:大阪市マンション管理支援機構
制度・条件の確認日:2026-10-02
管理規約の見直し
この判断を進めるとき、規約が旧法のままになっていませんか
修繕・お金・運営の判断は、最終的に総会決議と管理規約の条文で決まります。改正区分所有法(2026年4月1日施行)で決議要件や手続きが変わったため、規約側の確認も合わせて進めるのが安全です。
管理規約スタジオは、現行規約を取り込むと標準管理規約・改正法との差分を条文単位で洗い出し、新旧対照表と改正案を出力する実務者向けツールです(運営会社のサービス)。
管理規約スタジオを見るコネル
管理組合の相談コンシェルジュ
管理組合を中心に、情報・ツール・専門家をつなぐ、管理コネクトの案内役です。 制度や実務をかみくだいて整理し、判断はみなさまと専門家に委ねます。 口ぐせは「いっしょに、よい答えを見つけよう」。

