修繕積立金のうち、運用に回せるのはいくらか──長期修繕計画で「いつ使うお金か」を数える
国債などで積立金を運用する組合が出てきました。最初に確かめるのは商品名ではなく、そのお金をいつ使うかです。長期修繕計画と支払いの予定から手元に残すお金を数え、運用の方針を総会で決めるまでの手順を、実例とともに整理します。

東京湾岸のタワーマンション「ブリリア有明シティタワー」の管理組合が、修繕積立金の大半を国債で運用していく計画だと、テレビのニュースが伝えました。初めての大規模修繕を数年後に控えたマンションです。
理事会で「うちも積立金を運用できないか」という話が出たとき、最初につまずくのは商品選びではありません。「持っている積立金のうち、どのお金なら回してよいのか」です。管理組合の相談コンシェルジュをしているフクロウのコネルです。
この記事で持ち帰ってほしいことは三つです。
- 運用に回せるかどうかは、商品名より先に、長期修繕計画と支払いの予定から「そのお金をいつ使うか」を確かめて考えること
- 計画は確定したものではないので、計画が動いたときに使えるお金を別に残し、その額は組合で決めること
- 自分たちの規約を確かめたうえで、運用の方針と理事会に任せる範囲を総会で決めること
運用に回せるお金の考え方、自分たちの計画の見方、理事会がいまやることの順に見ていきます。
「運用に回せるお金」とは、どのお金のことですか
修繕積立金の残高のうち、長期修繕計画(将来の修繕工事の時期と費用の見込みを並べた計画)と支払いの予定から見て、当面使う予定がなく、計画が動いても困らない部分です。近いうちに予定している工事の支払いに充てるお金は、運用ではなく支払いの準備として置いておきます。
次の表は一つの公式な分類ではなく、理事会で話を進めるための整理です。
| お金の分け方 | 中身 | ひとことで言うと(コネルの補足) | 出てくる資料 |
|---|---|---|---|
| 近いうちに使うお金 | 数年のうちに予定している修繕工事の支払いに充てるお金 | 支払いを待っているお金 | 長期修繕計画総括表の直近の年度、その年度の予算、工事の契約書 |
| 計画上しばらく使わないお金 | 計画のうえで、一定の年数のあいだ支払いの予定がないお金 | 運用を考えられるお金 | 長期修繕計画総括表の年度ごとの残高、収支計画グラフ |
| 計画が動いたときのためのお金 | 工事の前倒しや工事費の増額に備えて、すぐ使える形で残すお金 | 運用に回さないと決めておくお金 | 総会で決める運用の方針(手元に残す額) |
この考え方に近い例があります。不動産テック協会のインタビューによると、「プラウド北浦和」(総戸数57戸)の管理組合は、数年使わない「底だまり」と説明した部分を運用の対象にしました。当初は当時の積立金の約3割にあたる額の米国債を2回に分けて買い、その後も追加で購入を進めているそうです。理事4名に、債券運用に知見のある住人2名が加わって検討し、規約にある「修繕積立金の保管及び運用方法」の定めに基づいて総会に諮り、委任状を含めても反対は1割程度で可決されています。
そもそも、自分たちの長期修繕計画はどうなっていますか
まず長期修繕計画の総括表と収支計画グラフを出してもらい、年度ごとの残高の動きと、計画の前提を見ます。運用に回せる額を考える土台は、商品の情報ではなく、組合がすでに持っているこの計画です。
国の標準様式では、総括表に年度ごとの収入と支出、次年度繰越金(その年度の終わりに残る積立金)が並びます。理事会で最初に開くのは次の二か所です。
| 見る資料 | 何を見るか |
|---|---|
| 長期修繕計画総括表と収支計画グラフ | 年度ごとの支出と次年度繰越金の動き、一時金や借入れを前提にした年度がないか |
| 長期修繕計画の作成・修繕積立金の額の設定の考え方 | 修繕積立金の運用益、借入金の金利、物価の変動を考慮しているか。考慮している場合は年何%を想定しているか |
国土交通省のガイドラインは、計画期間の工事費の見込みの累計を、積立金の累計が下回らないように計画することが必要としています。自分たちの計画が実際にその状態になっているかを確かめます。また、大規模修繕の年に一時金や借入れで足りない分を補う前提の計画もあります。その場合、一時金を集められるか、借入れができるかは、別に確かめる必要があります。
では、いま何をすればよいのか
最初に、材料をそろえます。長期修繕計画の作成日と最後に見直した日、現在の修繕積立金の残高とその内訳、総会で承認済みの工事や、すでに契約した工事と、その支払いの予定日です。内訳は、普通預金、定期預金、すでに持っている債券などに分け、それぞれの満期と換金の条件も確かめます。同じ段階で、自分たちの管理規約と細則も開き、運用の方針を総会で決める必要があるか、個別の購入や売却を理事会に任せられるか、そのためにどんな決議や細則が要るかを確かめます。
次に、年度ごとに、入ってくる積立金、出ていく工事費、満期や換金で使えるようになるお金、手元に残すお金を並べます。工事が近い時期は、年度の単位ではなく、契約で決まった支払いの時期ごとに確かめます。どの時点でも支払いに必要なお金が足りる範囲が、運用を考えられる額です。残高がいちばん低くなる年だけを見て決めることはしません。
そのうえで、計画が前倒しや増額になったときに使うお金を、運用とは別に残します。工事の時期が早まったり、工事費が見込みより増えたりすることは、計画の性質上ありえます。今回確認した国土交通省のガイドラインと標準様式には、手元に残す額を一律の年数や割合で示す基準はありません。理事会が建物の状態と資金計画をもとに案を作り、総会で運用の方針として決めます。
商品ごとに、満期、途中で換金できる時期、換金するときの額の決まり方を分けて確かめます。住宅金融支援機構の「マンションすまい・る債」は、各債券の満期が発行から10年後です。初回の債券の発行から1年以上たてば、修繕工事等のために、1口(50万円)単位で手数料なしで換金できます。ただし、いつでもすぐに換金できるわけではありません。2回目以降に買った債券は発行から2か月以内、各債券が満期を迎える年の2月には、換金した額を受け取れません。機構の審査と承認が要り、希望する月の前月から手続きを始める必要があるので、希望した月に換金できないこともあります。工事代金に充てるなら、受け取れない期間と手続きの期間を含めて確かめます。市場で売る国債や社債は、満期の前に売ることはできても、売る値段が額面を下回ることがあります。すでに買った国債の値下がりの考え方は「組合で買った国債が値下がりしていたら」で整理しています。
個人向け国債は、2026年10月の時点では管理組合は買えません。管理組合などへの販売は、2026年12月募集分から「個人向け国債プラス」として始まる予定で、金融機関によっては扱いの開始が遅れることもあります。原則として発行から1年たてば換金でき、そのときは直前2回分の各利子(税引前)に相当する額に0.79685を掛けた額が、中途換金調整額として差し引かれます。詳しくは「管理組合も個人向け国債の対象に」で整理しています。
確かめる先は、論点ごとに分かれます。長期修繕計画や規約、議案の組み立てはマンション管理士、工事の時期や建物の状態は建築士など、商品の取引条件は取り扱う金融機関、税金は税理士などです。管理会社には、管理委託契約の範囲で、長期修繕計画や会計の資料の提供、金融機関との手続きの手伝いなどを頼めます。専門家と管理会社は判断の材料や手続きを支え、運用の方針を決めるのは総会と、総会から任された範囲の理事会です。
冒頭の例に戻ると、ブリリア有明シティタワー(600戸、2015年築)の管理組合は、すでに数千万円分の国債を買い、今後は修繕積立金の8割を国債で運用する計画だと報じられています。理事の方は、定期預金と比べて、利回りと安全性の面で国債に魅力を感じていると話しています。同じ番組では、ファイナンシャルプランナーが、国債は金利が上がると価格が下がるため、満期の前に手放すと元本割れになる可能性がある、と指摘しています。番組では「中途解約」と表現されていますが、市場で売る国債の話で、所定の差引きで換金する個人向け国債プラスとは仕組みが違います。報道からは、買った国債の満期の組み方や、手元に残す額、工事代金の支払いの時期までは分かりません。ここからは一般論として、自分たちの組合では、工事の支払いの時期と、お金を使えるようになる時期を照らします。
計画が運用益を見込んでいる場合は、その利率と、税金や手数料を差し引いた現実的な受取りの見込みを比べます。安全性と、必要なときに換金できることを満たす商品で見込みに届かないときは、利回りの高い商品を探して差を埋めるのではなく、長期修繕計画や修繕積立金の額を見直します。残高の動きを大まかにつかむには、長期修繕計画の簡易シミュレーションも使えます。
資金計画と商品の条件を整理したら、最初に確かめた管理規約の手続きに沿って議案を作ります。国のひな形であるマンション標準管理規約では、修繕積立金の保管及び運用方法は総会の決議事項です。理事会が議案を作り、総会で、運用の方針、対象にする商品、上限の額、期間、手元に残す額の基準、理事会に任せる範囲を決める方法が考えられます。個別の購入や売却は、総会の決議や細則で任された範囲で理事会が決めます。進め方の分担は「運用を提案したら止まった」で整理しています。
よくある質問
手元には何年分を残せばよいですか
今回確認した国土交通省のガイドラインと標準様式には、一律の年数や割合で示す基準はありません。建物の状態、これまでの修繕の経過、次の工事までの年数で、必要な額は組合ごとに変わります。理事会で案を作り、総会で決める運用の方針に、手元に残す額として書いておくのが分かりやすい形です。
大規模修繕が近いと、運用はできないのですか
一律にできないわけではありません。工事の支払いに充てるお金とは別に、工事が終わったあとも残る「底だまり」があれば、その部分について満期や換金の条件を照らしながら検討できます。工事が近い時期は、見積りや契約の段階で工事費が見込みから動くこともあるので、その分も手元に残す額に含めて考えます。
計画が運用益を見込んでいない場合はどうなりますか
運用してはいけないという意味ではありません。運用で得た利息は、計画に入っていない分として残高に加わります。見込むときは、税金を差し引いた後の受取額から手数料などを除いた額で考えます。税金の扱いや申告の要否は、商品や組合の状況によるので、取り扱う金融機関や税理士に確かめます。逆に、計画がすでに運用益を見込んでいるなら、その利率を目標にするのではなく、届かないときに計画の見直しが要るかを確かめます。
まとめ
- 運用に回せるかどうかは、商品名より先に、長期修繕計画と支払いの予定から「そのお金をいつ使うか」を確かめて考えること
- 計画は確定したものではないので、計画が動いたときに使えるお金を別に残し、その額は組合で決めること
- 自分たちの規約を確かめたうえで、運用の方針と理事会に任せる範囲を総会で決めること
計画の総括表を開き、いつ、いくら必要になるかを確認して、しっかり取り組むことが出発点です。運用を選ぶ場合も、必要なときに使える状態を損なわないことを優先します。
出典
- テレビ朝日系(ANN)「マンション修繕積立金を国債で運用」(2026年9月28日)/リードと本文の例(ブリリア有明シティタワー)、途中解約と元本割れについての指摘
- 一般社団法人不動産テック協会 インタビュー(プラウド北浦和マンション管理組合、2026年2月17日)/「底だまり」の例、委員会の構成、為替の議論
- 国土交通省「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」(令和6年6月7日改訂、PDF)/計画期間と見直し、計画の精度、収支計画の検討、標準様式(長期修繕計画総括表、収支計画グラフ、長期修繕計画の作成・修繕積立金の額の設定の考え方)。案内ページは長期修繕計画作成ガイドライン等
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」(令和7年10月改正、PDF)/第48条第七号(修繕積立金の保管及び運用方法)
- 住宅金融支援機構「マンションすまい・る債」・マンションすまい・る債のご案内 第5章(中途換金の手続について、PDF)/満期、中途換金の条件、換金額を受け取れない期間、審査・承認と手続きの期限
- 財務省「個人向け国債 よくある質問(中途換金について)」・財務省「個人向け国債プラス」/中途換金の時期と差し引かれる額、法人等への販売の予定
制度・条件の確認日:2026-10-06
管理規約の見直し
この判断を進めるとき、規約が旧法のままになっていませんか
修繕・お金・運営の判断は、最終的に総会決議と管理規約の条文で決まります。改正区分所有法(2026年4月1日施行)で決議要件や手続きが変わったため、規約側の確認も合わせて進めるのが安全です。
管理規約スタジオは、現行規約を取り込むと標準管理規約・改正法との差分を条文単位で洗い出し、新旧対照表と改正案を出力する実務者向けツールです(運営会社のサービス)。
管理規約スタジオを見るコネル
管理組合の相談コンシェルジュ
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